某人気店でのこと。
そこは定食もつまみも安くて美味しく、どの時間帯も混み合っているお店であった。昔ながらの昭和スタイルのお店で、相席も当たり前。この辺は運になるが、相席覚悟でも行きたくなるお店なのである。そしてその時も、相席になってしまった。
4人掛けのテーブルに、同世代の男性がひとり飲んでいた。
「お邪魔します。」と言って座ると、静かに頭を下げる。物静かな人のようで、ちょっと安心する。軽く酔ってのコミュニケーションも嫌ではないが、あまりうるさいのやしつこいのは困る。なら不愛想の方がよっぽどいいぐらいだ。
とうとう隣のテーブル席が空いて私達が移動するまで、彼とは一言も言葉は交わさなかった。4人掛けテーブルを確保でき私達は寛いだが、果たして隣には新たなる相席者が現れたのだ。
「お邪魔します。」その年配の男性も、その言葉から始まった。決まりがある訳じゃないが、マナー的にそうなってしまうのだろう。
この男性はすでにどこかで一杯ひっかけて来たのか、ご機嫌で先客に話しかける。先客も、当たり障りなく答える。物静かな人だったが、嫌ではないようで、はたからは楽しそうに話しているように見えた。
ところがこの先客の方が何か言いかけても、年配がそれを拾わないのである。つまり年配の一方通行。聞こえてくるのは、年配の武勇伝であった。アメリカで会社を経営していた話。
最初のうちは先客もバリエーションのある返事をしていたが、そのうち「はぁ。」「へぇ。」と最短になった。年配はそれも一向に気にせず、ご機嫌で喋りまくる。
これはたまらんな。
ひとりで静かに飲んでた先客の気持ちと、他人ごとではなくいつわが身に降りかかってもおかしくないという恐怖。
いいお店なんだが、お酒の席の相席は危険である。
いいお店なんだが、リスクは覚悟しなくてはならない。
清瀬の某店にて。