人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

わたしを離さないで / カズオ・イシグロ

「石黒一雄」という日本人が書いた本だと思っていたら、英語を翻訳したものでちょっと冷や汗が出た。

偏見なのは承知だが、あんまり翻訳モノは好きじゃないんだよね💦

やはり作者の言葉ではなくなってしまうし、日本語という多彩な表現のできる言語で訳すということは、そこに翻訳者のカラーが入ってしまうような気がしてしまう。

そのせいか、どうも文章が堅く感じて読みにくいのである。

それが、400ページを超える長編で手元に届いたのだ。正直、失敗した、と思った。

 

偏見はいけない(笑)

こんな思いで本を読んだのは、初めてじゃないかという程の出会いであった。

感動的、衝撃的、面白かった、どんな言葉もうまく当てはまらない。

不思議な感覚である。

 

 

物語は、主人公キャシーの回想で構成される。

ヘールシャムの施設を出て、今は立派な介護人として働いているキャシーも、もうすぐ退職する。

生まれた時から定められた運命で、当たり前のようにそれを受け入れて来た。

キャシーが思い返すのは、そんな当たり前の、ありふれた日常である。

 

しかし読んでいくうちに、ヘールシャムが特殊な施設であることが私達に分かって来るのだ。

特殊なのは、それだけではない。

キャシー達にとっての「当たり前」が、時々私達には異様に映るのである。

それは本当に自然に何気なく言葉に織り込まれていて、どうかすると読み飛ばしてしまいそうなほどだ。

あれっ?と一度通り過ぎてから、二度見するような小さな違和感。

やがて少しずつ分かって来る、キャシー達の運命。

 

そんな小さなヒントに気を取られ、壮大な伏線を見落としていた。

考えてみれば、キャシーの回想にはどこか不快感がつきまとっていた。

それを放置して読み進んでいたが、そうか、やっぱりそうだよなぁ、と後になって腑に落ちるあたりがまた「やられた」という感じで見事であった。

 

子供の頃、ちょっと背伸びをしたり、小さな悪戯心を持ったりした過去。

許したり許されたりしながら、時を重ねていく。

わだかまりが残ることもあるが、「運命」を前に彼らは、彼らなりに折り合いをつけていく。

ここで物語の核心に触れられないことがもどかしいが、この本の魅力はストーリーもさながら、キャシーの言葉に時々現れる小さな違和感、その正体が少しずつ明らかになっていくところにあると思う。

とても不思議な感覚だ。

 

凄い本を読んだ。

ぜひ多くの人に読んで欲しい。

 

 

ぽ子のオススメ度 ★★★★★

「わたしを離さないで」 カズオ・イシグロ

ハヤカワepi文庫