本当に、忌々しいことである。
これ以上にないほど無防備な睡眠中に、足がつる。
怒り、絶望、恐普A悲観。これらの感情が一度に襲い掛かりながらも、やるべきことはその対処だけである。
傍から見れば、哀れでしかない。
こんな忌々しい突然の不幸にも、慣れるものだ。
何度も繰り返すうち、対処法も確立できてきた。
「足がつる」とひとことで言っても、それには段階がある。
①予兆。この段階で備えておけば、不幸は防げる。
②つり始め。焦らず、体勢を整えれば回避できる。しかしその体勢を崩すことはできない。
③つった。ハッキリと痛い。このままにしておくと、最悪の段階に入る。痛いのをこらえて体勢を整える。
④最悪。もう整えるべき体勢はなくなっており、どうあがいても痛いだけ。運命を呪いながら、神の怒りが去るのを待つのみ。
ここでいう「体勢を整える」というのは、足の置き方や向きをしかるべき位置に持っていくことである。
つま先を反らせたり膝を立てたりするのがいい。それでもダメなら立ち上がる。
②で回避できればいいが、③まで来るとこの体勢にもっていくのにも非常に辛い。辛いが、やらなければもっと辛い地獄が待っているのだ。
敵の剣が自分の肩に刺さっている。これを引き抜くような感じだ。気合の声も出る。
試行錯誤の甲斐があり、このところ④までくることは全くなくなっていた。
②ぐらいまでは良くあるが、②までは「回避」である。問題ない。
しかし先日、③に入った。
それも、③から④に入ろうというところであった。
夜中に目が覚め、「ウッ、これは何かヤバい」と思った時にはすでに時遅し。
体勢を整えようにも、向こうの方が早かった。ふくらはぎはギューッと収縮していく。
痛みは加速し、私は思わず声を上げた。
「いたたたたたたEE:AEACB」
もう足を反らすなんていう程度では太刀打ちできそうもない。立ち上がらなくては。
どちくしょうめ、さっきまで私はスヤスヤと安らかに眠っていたはずである。何の仕打ちだ。まだ眠いというのに。
痛みは④の寸前まで来ていた。
「ア~~~~~~~~EE:AEB30」という悲痛な声と共に、立ち上がる。
ふくらはぎがギュッと反応したのが分かる。どうやら勝ったようだ。
しかし油断は禁物。完全に痛みが去り、ゆっくり動かして異変がないことを確かめてから、やっと布団に戻った。
私が書きたかったのは、自分のことではない。
布団に戻るにあたり、私はその存在を思い出した。エル。
一緒に布団の中で寝ていたはずである。
エルもスヤスヤと安らかに眠っていたところ、突然飼い主が唸り声と共に転げまわり、悲鳴を上げて立ち上がったのだ。
私達は、確固とした信頼関係で結ばれている。
しかしながら種族の違いから、コミュニケーションの方法は限られ、お互いに未知の部分が多い。
一体エルはどんな気持ちで私を見ていたのだろうか。
彼女はベッドから出て、足元から遠く離れたところで姿勢を正して座っていた。
想像するに、エルも恐怖だったはずだ。
しかしさらにそれを俯瞰してみると、何とも滑稽な図である。
この私とエルを動画で撮って外側から観たとしたら、そこに同情はないだろう。私だったら笑う。特にエルのアップと私を交互に撮って欲しい。
これでも最終段階は免れたのだ。
その事に感謝して、私は再びエルと眠りについたのであった。