彼女からのLINEは、数ヶ月ぶりになるか。
「結婚しました!」という言葉に驚いたのは、結婚した事実だけではなかった。その相手が、相手だったからである。

スマホゲームから完全に足を洗って、2ヶ月ほどになる。それほど未練もなく、本を読む時間も増え、これはこれで満足していた。
最後まで止められなかった乙女ゲーの「恋と深空」も、断ってみれば茶番だ。なんであんなものにうつつを抜かしていたんだろう。
ところがだ、彼女が結婚した相手は、このゲームのキャラだったのである。私は大きく揺さぶられた。
「どういうこと!?結婚イベント!?」
「イベントっていうか、限定ガチャ。」
・・・・・・・・・・。
「いつまで!?」
「あと1日!!」
あと1日。
私は久しぶりに、ガチャに必要なダイヤの数に頭を巡らせる。全然プレイしていないから、ダイヤの数はいくらもないだろう。しかしイベントならミニゲームで稼げる可能性がある。
私はすぐにゲームを立ち上げた。
立ち上がらんかった。
アップデートの容量が足りないのだ。
休日だった。そのまま私は出掛け、夜になり酔っ払って家に帰ると再びゲームを立ち上げた。容量が足りん。何を減らせばいいんだ。
差し当たって、ほとんど使っていないアプリを削除した。それでも足りない。
足を洗ったと言ったくせにまだ残しておいたゲームも、削除した。足りない。
ChatGPTに問う。どうしたらガバッと容量空けられる!?
動画を減らせと。
いやいや、動画はもう極限まで減らしてある。なくしたくないものだけしか残ってないのよ。
しかしチャッピーは言った。「大丈夫、スマホから削除しても、データは消えないから!」
ホントかよ?よく意味が分からないが、私も必死である。
「デバイスの空き容量を増やす」。そのために何が削除されるのかは分からないが、データが消えないなら何でもいい。何でもいいから早く!!
どうやらガッツリ空き容量は確保できた。次はゲームのアップデートだ。しばらくやってなかったからか、長い。
寝ていた。
限定ガチャも終わっていた。
これで良かったんだ。
危うく私はまた、あの世界に戻ってしまうところだったのだ。
結婚したかった(笑)
しかし私の現実は、揺らいでいない。
いつものように朝が来て、56歳の夫と休日にラーメンを食べる。
夢は夢でしかないのだ。
私は現実を「叶えて」いく。