「ハウスッ!!」
「・・・・・・。」
私とミッツは犬部屋の隅で睨み合っていた。
もういつも寝ている時間を過ぎていて、私はちょっと苛立っていた。どうした訳かミッツは、頑なにケージに入ろうとしないのだ。
いつもなら、「ハウス」のひと声で「はいはい」とばかりに自ら入って行く。そこにご褒美のおやつをあげる。これでコトは済んでいたのだ。一体なんなんだ。
最初のうちこそケージに入るそぶりを見せたり舌を出したりしていたが、私も意地になって凄み始めたので、ミッツの顔も情けない顔になっていた。
このまま無駄に時間だけが過ぎていくのだろうか。頼むよ、今日はまだDuolingoをやってないから布団に入ってからと考えていたのに。
仕方がない、強行突破だ。抱えて入れようと思い手を伸ばすと、背後を取られまいとミッツはお腹を上にしてひっくり返った。
ならばと脇の下に手を差し込み、そのままズルズル動かしていく。思えばまだハウスを覚えていなかった昔は、毎晩こうであった。
ところがミッツは、ガウッと噛みつくそぶりを見せたのだ。やめろとアピールしているのが伝わる。
ミッツよ、私は主従関係を築くにあたって、君を頭ごなしに従わせようと思ったことはない。信頼関係を大事にしたいと常に思って来たのだ。私はミッツを信じてるし、ある程度の自信はあった。噛むなら噛め。しかし本気で噛むことがないのは、分かっている。構わず私はミッツを動かし続けた。
「キャイン!!」ミッツは甲高い声を出して、とうとう私に噛みついた。
まだ本気ではない、血も出なかったし跡も残らない程度だったが、これ以上は危険であると感じさせるには十分だった。これはミッツの警告だ。「本気を出させるな」と。
それでも手を伸ばそうとすると、ミッツはまたキャンと鳴き、牙を剥いた。
限界だ、もうどうしようもならん。
正直、一日ケージに入らないぐらいはどうでもいい問題だった。
しかし「ゴネれば通る」という前歴を作りたくなかったのだ。
ケージに入りたくない理由は分からなかったが、このまま次の日もまたその次の日も繰り返されたら、ミッツはケージで寝なくなってしまう。嫌なことは粘れば通る、それでは困るのだ。少なくとも犬と飼い主の関係上は。
とは言えもう時間も遅いし、ケージに入らない理由も思い当たらず正しい対処ができているのかも分からない。
結局ミッツはリードで繋いで、この日は寝たのだった。
つづく