人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

このバカ

「もぉぉぉぉぉぉ、このバカ!!!!!」

キレた。ついにキレたぞ。

床にはたっぷりの尿溜まり。ミツコのアホヅラ。

それを拭きながら、とうとう私の理性は吹っ飛んだ。

「バカ、本当にバカ、バカバカ!!」

しかしさすがにあまりに酷い悪態はためらわれ、バカぐらいしか言えることがない。この腐れ外道と言えたらどんなにスカッとしただろうか。それと同時に、後悔もするだろう。犬相手にそんなことを言っている自分を、蔑むはずだ。

腐れ外道、ションベンタレ、ノータリン、いくらでも言えることはあったが、思いつくほどに悲しくなった。

エルの尻が爆発してからというもの、ミッツの焼きもちが酷くなったのだ。

恐らく私達のエルへの接し方が、より濃厚になったからだろう。

カラーが邪魔でご飯が食べにくいだろうと、手から食べさせたり匂いのいいものをあげたり、まぁミッツには面白くないはずだ。

ワンワンキャンキャンと吠え、しまいに粗相をするようになってしまった。

叱って直るものではないのは、犬も猫も同じだ。冷静に対処してきたつもりである。

しかし繰り返される粗相。何か策を講じないと、当たり前になってしまう。

そのとき気が付いたのは、粗相は床に直接よりも、何かの上にしてしまうことが多いということ。

そこで、ケージについていたペットシーツ型のトイレを床の真ん中に置いてみたのだ。

これがなぜか、散歩の前にここでしたのである。

トイレトレーニングから逃げていたので、これはとんでもない快挙だ。おもらしちゃんから一気に優等生ではないのか。

私は急いでドラッグストアに行き、吸収力のいい高いペットシーツを買ってきて設置した。

やれよ♪早く焼きもち焼いてくれないかなぁ。

その時は、すぐにやってきた。

エルがご飯をねだりに来ると、すぐにそれに反応して吠え始める。

私は遠慮なくエルにご飯をあげ、ミッツは吠えさせておいた。

が結局、「もぉぉぉぉぉぉ、このバカ」なのである。

なまじっか希望を持っただけに、落胆は大きかった。

勝手な希望だ、怒る筋合いではないことは分かっているが、もうそういった理性とか我慢とかいうものは吹っ飛んでしまったのである。

バカバカバカバカ、と言い捨てて、ドアを閉めた。知らん。もう知らん。

ミッツは悲しそうな顔をしていた。後ろめたさからそう見えたのかもしれないが、それがまた、私の気持ちを荒ませる。知らん!!

しかし散歩には連れて行かなくてはならない。もういい時間になっていた。

とてもそんな気持ちになれなかったので、できるだけ後回しにする。それでもいつかは行かなくてはならないのである。

私は無言で支度をし、無言で連れ出し、目も合わせず歩き出した。

散歩のスタートではいつも、ピョンピョン跳ねて「おやつちょうだい」とおねだりするのが習慣であった。

無視した。調子に乗るなよ、今日はいつもと違うんだぞ。思い知れ。

ミッツはちょっと怒ったようにリードに食いついて引っ張ったが、無視。

しかし少し歩くといつも通りにグイグイ引っ張って、マイペースで勝手に歩き出したのだ。

こんな時、一度止まらせて「ゆっくり」などとやっていたが、もうそれも知らん。お前は一生グイグイしてな。

しかしその角を曲がると、急に歩調を合わせ始める。ここではふんだんにご褒美で釣っていたので、顔色見ながらゆっくり歩くようになりつつあったのだ。

そのふんだんぶりは、ほんの2,3歩で1回という大盤振る舞いである。

ご褒美がもらえないので、ミッツは2,3歩ごとに振り向いては進むことを繰り返している。

ニヘラ~っと舌を出して、何度も何度も振り向くミッツ。ほらほら、できるでしょ、と2,3歩ごとに訴えているようだ。

・・・負けた。

「よし」と言ってご褒美をあげると、喜んでグインと引っ張る。おいおい、止まれって。「ゆっくり!」

こうしていつものトレーニングが始まった。

ミッツは安心しただろうか。

いやむしろ、ホッとしたのは私の方なのかもしれない。

怒りと言う感情は、抱えていてもいいことがない。

ドロドロとした嫌なものが、浄化されていく。

ミッツが悪いのではない。アプローチが悪いのだ。

諦めない。何か方法があるはずである。

調べたところ、粗相には「無視」が一番とのことだ。

なんだ、私と大して変わらないじゃないか。

根競べの始まりだ。