家で、映画を観ていた。
プロジェクターを設置した音楽室でハンバーガーを食べながら見るのが、いつものパターンだ。エルは必ずやってきて、ハンバーガーをちょっぴり分けてもらうのを楽しみにしている。
映画も終盤にさしかかる頃。
ハンバーガーはとうに食べ終え、スナック菓子に移行してアボヅラになっている頃だ。
このあたりにくれば、映画が私達を楽しませてくれているのかはもう分かってきている。私は少々退屈で、眠くなってきたところだった。
「ギャオー!!」
エルが突然叫び声を上げた。見ると、鍵尻尾の関節が、譜面台の足に絡まってパニックを起こしている。
エルの尻尾には関節が5個もあり、その全てが鋭角に曲がってひとつの丸い尻尾となっていた。なのでこのように引っかけると、なかなか抜けないのである。そしてこの尻尾はとても敏感なようで、ちょっと触れるだけで物凄くエルは怒る。そんなものが譜面台の足に引っかかっているのだ。怒り狂っている。
とっさに譜面台を外そうと手を伸ばすと、フーッ!!とエルは威嚇して私の手に襲い掛かった。そしてその爪が腕に引っかかり、取れなくなる。痛い、泣きたい。
空いている左手で譜面台を動かそうとするも、譜面台が動くことで尻尾が刺激され、ますます発狂エルの爪が私の腕に食い込んでいく。エルの唸り声と私の叫びが繰り返される。痛い助けてどうにかして~~~!
ダンナが譜面台を外しにかかる。動くたびに、エルはギャオ!!と叫び、私の腕をひっかき、噛みつこうとする。「ちょっとどうしたらこれ取れるの・・・。」複雑に絡んだ尻尾がどうにも取れないようで、ダンナがうろたえている。悪いがこっちも必死だ。エルの怒りは受け止めるから、何とか外してちょうだい。
しばらくは私もパニック状態だったが、なかなか取れないので私も少し冷静になってきた。
とにかく痛い。そして、譜面台を外そうとするとなお痛い目に合う。どうやっても痛いのだ。この痛みからは逃れられないのだ。そう気づいた時、悟りが開かれた。
痛みを関知しない。
これは私の痛みではない。痛いような気もするが、腕が勝手にやってる茶番なのだ。
すると不思議と、痛みは遠のいていく。正確には痛いことに変わりはないが、他人ごとのように感じることができたのである。
よし、どうにでもなれ。その譜面台、私が反対の手で取ってみせる。
・・・と意気込んだところで、譜面台は外れた。
しかし今度はエルの爪が私から外れない(笑)爪は海賊フックの義手のように丸くなっているので、食い込んでしまったら回して外さないと取れないのである。
エルはまだガルガルと唸っている。猛り狂う神をこれ以上刺激しないよう、そっとその手を握り、私の腕から外す。
フー。
久し振りのエルパニックであった。
終わってから思い出したが、こういう時エルは噛みついてくるので、前回はその辺のものを(ポケット野鳥図鑑だ笑)噛ませておいたのだった。
そうしょっちゅうあってもらっては困るが、時々やらないと忘れるね。
まぁ誰も大事に至らず良かったです、はい。