犬と初めて暮らして分かったことが、たくさんある。
賢い動物というイメージだったが、案外そうでもない(笑)というか、実際には猫よりも賢そうなんだが、賢いあまりに滑稽でアホッっぽくなってしまうのである。
動きも猫の方がすばしこく機敏で、犬はモッサリしている。
これはミッツが太り気味なことと、床が滑って歩きにくいこともあるだろう。
なので犬の(猫にしては)巨体に追われても、猫は軽々とかわしている。
こうして我が家の動物社会は、何となく安定した。
が。
どうやらミッツは分かっている。我が家の頂点にいるのがエルだということを。
そしてそれが許せない。
この序列を崩さないためにも、あえて猫様アピールしてきた部分はあった。先住である猫達に、危機感を持たせたくなかった。
ミッツも猫に対して敵意は持たず、今ではほとんど関心を示さない。
しかし、どうしても、どうしてもエルが可愛がられるのだけは我慢ならないようなのである。
エルの名前を呼ぶ。
すると、どこにいてもアウンアウンと変な声を出しながら、猛突進してくるのだ。
太ってモッサリしたミッツが、ツルツルと足を滑らせながら走って来る。
その時エルを抱いていれば、エルの匂いを嗅ごうとし、勢い余って尻などをかじることもある。
かじられたエルは鳴くが、それがまたミッツの興奮を誘う。
どうやら妬いているらしい。
それにしても、物凄い勢いだ。
この家の中にいる限り、ミッツが興奮することなどほとんどない。
大好物のおやつを見せたって、こうも動きは早くならない。
ところがひとたび「エル💗」と呼ぶ声が聞こえると、ドドドドドドとツルツル滑りながら速攻で飛んで来るのだ。まるでそのようにしつけられたが如く。警備会社が開発したロボットみたいだ。正確で、素早い。
エル自身に反応している訳ではなく、「エルを可愛がる」ことが気に入らないようで、普段はそばにいても関知しない。なのでまぁ何となくそれなりにうまくやってはいるが、おちおちエルを愛でられないので困っている。
エルを愛でる、ということはもはや呼吸と同じであった。抱こうが揉もうが舐めようが、それをわざわざ「愛でる」とは言わない。ダンナがエルのお腹にチューをしていても、それは普通のことで何とも思わないのだ。なので私達は油断して、何度でも「エルぅ~」などと甘い声を出す。
するとアウウン、アウウン、とあの巨体が突進してくるのである。もうまるでマンガだ。
序列を変える訳にはいかないが、「自分が一番なのかも」と錯覚させるぐらいはした方がいいのかもしれない。
あくまでも「錯覚」だぞ、ミッツ。