私はこれまでの人生で、いったい何回トイレに入っただろうか。
扉を開け、座って、扉を開け、出る。
その間に壮大な儀式が執り行われるが、そんなものも何百、何千と繰り返していれば空気だ。一日の終わりに思い返したりなどはしない。
そこにはドラマがないのである。
それなりに「キレが良かった」「思ったより手こずった」などの変化はあれど、「あんなことがあった」と思い返すようなドラマがないのである。
これだけ通っているにもかかわらず、透明な存在だ。by酒鬼薔薇。
そんなトイレに、ちょっとしたドラマが起こった。
我が家では、トイレにマッチを常備している。
消臭効果があるというので使ってみたら、その効果がテキメンだったので常備するに至った。本当だ。
臭いという事は、とてつもなく恥ずかしいことだ。たとえ家族でも嗅いだり嗅がれたりはしたくない。
ビタ一文たりとも臭いを残したくないが、世の消臭剤は「上書き」または「ミックス」するだけで、消してはくれないのである。
あれは消臭剤とは言わない。汚臭と戦わせるオモチャだ。強いキャラが欲しければ高い金を出し、いいキャラを入手したければ色々買って経験値を上げる。
そんなに暇でもないし、無駄金もないよEE:AEB87
・・・と思っていたところにマッチである。
これもマッチの臭いが残るのである意味上書きだが、「消臭」、消してからの上書きなのである。完全勝利だ。
その証拠に、マッチの臭いが残るのである。
そんな訳でうちのトイレにはマッチがあるのだが、その日も私はマッチを使おうと箱を手に取った。
なぜマッチを使う事態になったかは、ここでは考えないでよろしい。考えるなEE:AE4E5
とにかくそれでマッチを擦ろうと思ったら、箱を落としてしまったのである。
こんなことは初めてだ。マッチはトイレの床に散らばった。
落ちたのが床で良かった、これを拾わないとEE:AE5B1
せいぜい数十本だが、私は「マッチを拾う」というストレスに初めて向かい合った。
細くて小さい上に、向きがある。なので一気に掴めないのだ。
一本一本指先でつまみあげ、揃えながら入れていく。
これは、トイレ史に刻まれた初めてのドラマである。
些細なことだが、平和なトイレ界においては、ちょっとした出来事であった。