寝室に入ると、フワリ、といい香りが漂っている。
ベッドに横になり、体を伸ばす。
その香りは頭の上の方から流れていて、絶えず私の鼻腔をくすぐっていた。
香りというものは、人の心を癒す効果を持っているものだと私は思う。
何となく幸せ・・・、とんな気持ちで目を閉じるのであった。
これが、数週間前までは結構エグいことになっていたらしい。
匂いというものは慣れるというか、長い時間その中にいると麻痺してくるようで、私は全然気づいていなかったが、どうも寝室はずっと臭かったらしい。
ダンナに言われて知ったのだが、言われたところで全く分からない程、麻痺していた。
どう臭いのかと言うと、「動物臭い」という。
どこかにオシッコでもされたのかと思ったが、そういう臭いではなく、獣臭のような感じだと言う。
この部屋で寝ている獣は私か猫だ。
もちろん猫であって欲しいが、猫だという前提で話を進める。
うちでは猫を風呂に入れない。
一番最初に来た姉妹猫は昔に何度か入れたことがあったが、病気をしたエルはなかなか入れる気にならず、そのうち風呂なんかいーじゃん、という感じになり、最後に来た大五郎など一度も入った事がない。
一応、猫というものはきれい好きで、常に自分で手入れをしているから別に風呂に入れる必要はないということである。もう一切猫の風呂のことは考えなくなった。
しかし、部屋が臭うほど臭いのだろうか?
私は平気で頬ずりしたりしているが、臭いと思ったことなど一度もない。
これももう、麻痺しているのだろうか。
正直、寝室が獣臭いと言われたのはショックであった。
私が気づかなかったショックもあるが、まるで「猫が臭い」と、我が子を冒涜されたような気持ちである。
とうとうダンナは、芳香剤を買ってきた。
基本的に匂いモノは嫌いな人だが、耐えられないほど臭いのか。
トロピカルフルーツの香り。
対動物臭芳香剤は、これしかなかったとか。
これで一気に寝室は南国ムード漂う楽園になった。
一件落着だが、本当に臭いのは猫なのだろうか。
いまだにそんなに臭いとは思えないのだがEE:AE4E6ダンナの鼻を疑っている妻であった。
そもそも我が家には、芳香剤の類は置いていなかった。
ダンナが香水などの香りモノが嫌いなのもあるが、単にお金がもったいないから買わなくなったのである。
どうせ客など来ない家だ、仮に臭くとも我慢すれば良い、そのうち慣れる。
芳香剤なんて、匂っただけでなくなってしまうのだ。はかないにも程がある。
それに対して払うには、金額が大き過ぎるように感じるのである。
一時期、100均で買った芳香剤を綺麗なガラスに入れていたこともあるが、100円の匂いの持続時間は、普通の芳香剤の100円分以下であった。
こまめに取り替えるのも買いに行くのも億劫になり、芳香剤からは足を洗ったのであった。
しかし正確に言うと、あるにはある。
どうしても慣れない臭さ、というものがあり、どうしても慣れない臭さが臭う専門の部屋というものがある。
その恐ろしい臭いを出すのは猫ではなく人間だ。出すほうも出されるほうも恥ずかしい。
という訳で、トイレだけは何とかしたい。
でも芳香剤は先のような理由で置きたくない。
そこでまず買ってきたのは、据え置きタイプの芳香剤ではなく、スプレータイプの芳香剤である。
これなら必要な時しか使わずに、無駄がない。つまり割安ということである。
予想通りこれは長持ちしているが、効果の方がいまひとつであった。
クサい臭いにいい香りを上書きしても、混じるだけで消されないのである。
これは据え置きタイプの時代にもあった問題だが、このような恐ろしい強烈な臭いは、よほど強烈に上書きするか元から断つかしないと消えないのではなかろうか。
答えは出なかった。
出ないまま、トイレに行く前には「誰もしばらくここを通りませんねー?!」と強制的に通行止めにしたりしてしのいでいた。
そんなところに、驚くような話が舞い込んできたのであった。
ネタ元はピアニストのまゆちゃんである。彼女のブログで読んだのだが、どうやらマッチを擦ると、消臭効果があるというのだ。
半信半疑でやってみたが、これが効果絶大、しかも即効!!
マッチ臭は残るが、本来の臭いに比べればはるかにマシだ。
ということで、現在我が家のトイレには、マッチと水が常備してあるのだ。
やはり、臭いより臭くない方がいい。
気づかないより、気づいた方がいい。