人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

猫鳴り / 沼田まほかる

タイトルと表紙で選んだ一冊。

表紙には、フンワリと暖かく、トラ猫が描かれていた。

子供を流産し、気持ちがささくれ立っていた信枝のところに、小さな子猫が舞い込んでくる。

捨て猫だ。

無防備に頼りなく生きているそれを見ると、生まれてこれなかった子供を思い出し、信枝の心はかき乱される。

何度も捨てに行くが、なぜか戻ってくる子猫。

お互いを思いやるあまりに、夫・藤治との関係はどこかよそよそしくなっていた。

そんな時、何度も子猫を捨てに行く信枝を見かねた藤治は、「飼ってやらないか。」と提案するのだ。

やがて家の前に子猫を捨てた子供が現れ、子猫を「モン」と名付け、不思議な交流が始まる。

これが第一部。

第二部は、時が流れ、舞台も変わり、父子家庭の行雄と父親の話になる。

朝、テーブルにお金を置いて出かけ、夜になるとコンビニ弁当を買って帰るだけの父親は、行雄とまったくコミュニケーションをとらなかった。

何とか父親に振り向いてもらいたいというジレンマが、行雄の態度を荒れさせた。それでも父親は無関心を貫く。

やがて行雄は、学校にも行かなくなった。

無邪気な子供を見ると殺意を抱き、ナイフを片手に公園をブラついた。

そこで偶然出会った同級生は、「モン」という大きな猫を連れた、母子家庭の子であった。

久しぶりに、まともな会話をする。

そこに、警察が現れた。とうとうバレてしまったか。行雄は連行されていく。

第三部は、さらに時が立ち、ひとり残された藤治と猫のモンの最期の日々となる。

私のようにタイトルと表紙でこの本を選んだ人には、読むのが辛い本になるだろう。

人は弱いものを守るのが当たり前であり、守りたくなるものだという暗黙のモラルがあるが、そんな風に思う人間ばかりではなく、それが間違っているとも一概には言い難いのも現実だ。

この本の序盤には、傷ついた子猫を何度も捨てに行くという冷徹さが、これでもかとリアルに描かれ、非常に読み辛い。

怪我をしてもなお、信枝にすがる子猫。

そんな子猫はカラスに早く食べられてしまうよう、もう戻ってこられないよう、最後には遠い森に置き去りにされる。

ここまでやったのだ、最後には感動の愛の物語があると信じて読んでいったのだが・・・。

二部も、「純粋無垢なものに殺意を抱く」というタブーを描く。

過去に実際、少年の猟奇的殺人事件があったが、その犯人の心の中を覗いているような不気味さがある。

信枝も行雄も傷ついていたが、その傷がここまで人間を歪ませるのである。

一部、二部とも辛うじて希望の光を見つつ曖昧に終わっていくが、三部はガラッと変わって、老いた藤治と老いたモンの静かな日々である。

結果的にモンは藤治に非常に愛され、大切にされたままこの世を去る。

しかし今度は、ジワジワと弱っていくモンとの別れをジワジワと感じながら葛藤する藤治の思いがジワジワと描かれるのである。

モンは立派に死んでいく。

藤治も立派に見送る。

この本が語りたいのは、生死観なのだろうか。

あまりに生々しい表現が多かったので不快感が先立ち、正直、何が言いたいのか良く分からなかった。

最後の藤治の献身的な介護は涙なしには読めない。

しかし「良かったね、モン。」という気持ちだけで読み終われない、何とも言えない後味の悪さが残った。

作者の意図は、私には伝わっていないように思う。

ぽ子のオススメ度 ★★☆☆☆

「猫鳴り」 沼田まほかる

双葉文庫