「ぽ子??あのちょっと、いいかしら・・・。」
母がこのように電話でかしこまって言う時には、良くない話が多い。
正確に言うと、本人は良くない話であることに気づいてはいないが、ちょっと不安を感じていたりする頃である。
そのとき私はソファに座って目を細めていたのだが(危ないところであった)、一気に目が覚めた。どうした母よ!?
「それがね、あの、なんか電話がかかってきて古いものを引き取ってくれるって言うから出すことにしたんだけど・・・、」
この時点で母に何が起こったか分かってしまったが、とりあえず全部言わせることにする。
それは、母がこの件を「良くない話」と捉えているかを知るためであった。
母は古いタイプライター、古いワープロ、古いコピー機など捨てられなくて困っているものを引き取ってもらうことにして、家で待っていた。
もうまんま、世間で言われている手口そのもので書くのも面倒だが、一通り見て、写真まで撮り、これはちょっと引き取れるかどうかわからないが、他にこういうものはないですか?と言って貴金属品を見せたのであった。
そういった類のものはなかったので被害はなかったのだが、問題は母に騙された意識のないところである。
母は、「この人、怪しいかしら?」と私に聞こうと思ったのではなく、「このワープロやタイプライターは、捨てるしかないのかしら?」ということを聞きたかったのだ。
私は怒った。
なぜなら、この手口は今流行っているから気をつけろと言ってあったはずである。
それからこういう素性の知れない業者を、電話や訪問で取り合ってはいけないと、子ヤギよ、ドアを開けるなと何度も何度も何度も言ってきたのである。
母は「あらぁ、でもね、リサイクルショップを始めるからって・・・。」
嘘です。
悪徳業者はどんな嘘だって簡単につく。
「ワープロだって部品を取り替えれば何とかなるかもって・・・。」
「ちゃんと名刺も置いて・・・。」
もう、涙が出そうだ。
厳格で冷徹な母はどこへ行ってしまったのか。
今はもう、頼りない子供のようである。
もう訳の分からん電話には出るな、電話をナンバーディスプレイにして、非通知を繋げるなと言ったのだが、意味が分からないらしく、突然電話にピ~プ~とFAX音が流れてきたEE:AE4E6
しかし母もショックだったようで、「もう私はボケちゃってダメだわ。今あんたが言ってることも忘れちゃうわ・・・。」と悲しげに言った。
悲しげに言わんでくれ、辛い。
どうしても怪しい手口が覚えられないなら、向こうからやってくる業者には一切取り合うなと、これだけ覚えてくれと私は頼んだ。
必要なことがあるなら、こちらから頼むのが一番安全なのだ。
おいしい話は向こうからやって来ないのである。
「それと、うちのにーちゃんが借金申し込むことは絶対ないからね。」と言うと「あんた、それぐらい分かってるわよ!!」と自信満々に笑ったが、やつらの手口は巧妙なのだ。
例えば「今、ヤクザの車にぶつけちゃって」などと泡食ってかけてくるかもしれないのだよ。
「あら、おにいちゃんは車乗らないから。」
そういう話ではないEE:AE4E5これはほんの一例だEE:AE4E5
奴らは母が思いもよらないようなことを言ってくるから気をつけろ、と言うのだッ。
母はすっかりしょんぼりしていた。言い過ぎたか。
30センチの物差しで尻を叩いた母は、もういない。
これからは私が母を守らなくてはならないのである。
何とも切ない気持ちだ。
言い過ぎを反省する。