人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

外国製の掃除機と古いワープロいかがすか。

「もしも~し、生存確認ですー!!」

「・・・生存確認にしては、稀ですね。」

父が旅行に出てから1ヶ月ほど経った。

母は実家でひとり。

もう80を過ぎているので、何が起こってもおかしくはない年齢である。

しかしとても元気なので、ついほったらかしになってしまうのだ。

数日前にふと母のことを思い出して、電話をしたのであった。

歳は離れていても、女同士である。

積もる話に花が咲き長電話をし、我が家のハイビスカスが死に掛かっている事を知った母は「面倒見るから持ってらっしゃい。」と言ってくれたのだ。

今朝私は6時半からとりかかってできる限りの家事を終わらせ、瀕死のハイビスカスを持って実家に向かったのである。

インターフォンを押すと「開いてるよ~~!!」と母の声。

・・・困ったね。

セールスレディの真似をして母を試すつもりでいたのだが。

とにかく母は、訪問販売に弱い。

なので口を酸っぱくして「絶対に訪問販売に耳を貸してはいけない。」と言ってあるのだが、先日私の罠にあっさりドアを開けたのでガッカリしたばかりである。

すでに外国製の数十万もする掃除機を2つも買っている母に、「あんの~~、外国製の掃除機いかがでしょうか~。」といかにも怪しげに言ってみたが、これには「掃除機ありますから結構です。」としっかり答えた。

その時私は母を試す事をとっさに思いついたので、どう返していいかがすぐに出てこなかった。

「今は掃除機も、沢山持つような風潮になっておりますよー。」なんじゃそりゃ。

「もうあるんです、ふたつー。」ふむ、これも合格。

「じゃですね、うちでは古いワープロなんかも扱っているんですがぁ。」

母は愛用しているワープロが壊れかかっていて、もの凄く困っていた。

なので先日古いノートパソコンをあげたのだが、もう80過ぎた脳味噌には難易度が高すぎ、お手上げだったのだ。

もう新しい事を覚えるのは無理、どこかでこれと同じ10年前のワープロを売ってないか、と言っていたのである。

「・・・・・・・。」

母は沈黙している。

ダンナが横で爆笑しているが、聞こえているだろうか。

「もうお店に出ていないような型のも、多く取り揃えておりますがぁ。」と続けると、ドアが開いた。

ガーン、開けたEE:AEB64頼むぜ、かーちゃん。

「外国製」の掃除機を2本も3本も持てと言う人間が、古いワープロも売りつけるなんて、おかしいと思ってくれないのか。

しかも私は、分かりやすいようにかなり怪しげな言い方をしたのだ。

そんな事があったので今後も時々抜き打ちで試してやろうと言っていたのだが、「開いてるよ~~!!」とは。

ひとたび訪問販売が母の家のドアを開けたら、もう契約成立なのである。

もちろん私を待っていたのだろうが、「セールスさんいらっしゃいEE:AE5BE」の無防備なこの状態が、少しでもない事を願いたい。

実家では昼飯をご馳走になり、みょうがと梅干をもらい、帰ってきた。

一方私は死にかけのハイビスカス5鉢を持ち込み、伸びすぎたバラの枝を引き寄せるためのヒモを、枝にひとつ結んだだけである。

母は急な階段をよっこらせよっこらせと這うように上がり、フムーEE:AE4F4とテーブルに乗ってベランダに出て、庭にヒモを投げ込む役であった。

その間私は蚊にさされながらボーッと突っ立っていたのだが、つくづく私は親孝行してないなぁと思った。

これでは実家にいた10代の頃と、何も変わっていないじゃないか。

家の中がかなり荒れていたので、休みが取れたら掃除に行こうと思う。

その時は何のセールスレディになろうかね。