「用意してある茶色いワンピと白のインナーを着て、バッチシ化粧して待ってること!」
健診が終わって家に戻って携帯を開くと、娘ぶー子からメールが来ていた。
今日は授業が早く終わるから、一緒にぶー子のバイト先のレストランでランチしようと言っていたのだ。
しかし何で服装の指定までしてきたかというと、そこにはぶー子の好きな人がいるからである。
酒飲みゲーマーであることを匂わせるような格好は、彼女の恥になるのでタブーである。
私には勲章なのだが。
彼女は家に戻ると私の髪型と化粧にダメ出しをして、それを直した。
いつかぶー子の「OK」が出る日はくるのだろうか。
ランチタイムで店は混み合っていた。
待っている間に一瞬、ぶー子の意中の彼が通ったが、ちょっと待て??私は小池徹平似と聞いていたが、「あずさ2号」の狩人みたいだったぞ?
・・・と率直な意見を言うと、爆笑して否定しなかったからあながち外れてはいなかったのだろう。
ちょっとガッカリである。
タイミング良く個室に通されたが、私は壁側を向いていたので後ろの店内の様子が全くわからない。
彼を見るチャンスが激減し、すっかり緊張が緩んでいた。
そもそも私たち親子は食べ方が汚いし、行儀が悪い。
私は親の立場としてぶー子の行儀の悪さを注意しなくてはならないのだが、ぶー子のテンションが上がっていて不意にアホなことばかりするので、何度も食ってるものを吹き出してしまう。
いい加減にしろ!!と注意すると「ぶえ~~EE:AEAA6」と言って咀嚼中の肉の入った口の中を見せる、「ヴォォ~~ッ!!」と突然フォークを目に突き立て「目からフォーク出ました!!」と吠える、かくいう私もエビフライをタルタルソースつきでぶー子の服に落下、米粒を合計6粒ほど周囲に撃ったが、それにしてもひどい食事風景である。
「店内で一番下品なテーブル」とぶー子が豪語したが、恥ずかしながら否定はできない。
しかしそんな中で彼は、急に挨拶に現れたのだ。
一応副店長である。いつもどうも、的な挨拶に。
その時はアホもネタ切れしてお互いタルんでいた。
ぶー子は遠くを見ながらボケーッと肉を食べていて(後に『ラバみてぇに食ってるときに急に現れた』と彼女は表現した)、私も肉を口いっぱい頬張って(そもそも大食いで一口がでかい)いる時であった。
彼は私の背中側から現れたので、先に気付いたのはぶー子である。
動物園のラバが突然シャキーンと背筋を伸ばしたので振り向くと、そこには小池徹平がいた。
いや、狩人っちゃ狩人だが、確かに小池徹平的要素もある。
つまり、素材としてはイケメンだが、垢抜けないと言う感じか。
彼はそのあともう一度、「ドリンクバーをサービスする」という店長のナイスアイデアを伝えに現れたが、タダと決まるとすぐに席を立つ。
仕事仲間が楽に皿を下げられるように、か何か言いながら皿を綺麗に重ねていたぶー子が、ドリンクバーで氷入りのコップを落として結局仲間の仕事を増やした事がまた笑えた。
家に戻ると私もぶー子も即、寝た。
下品な食事をし、食べたら眠る。
紛れもなく親子である。
ところで私は初めて、ぶー子にご馳走になった。
まぁ彼女がこの家で一番、自由になる金が多いっちゃそうだが、彼女の成長を感じ、嬉しいやら頼もしいやら。
ちょっと自分が小さくなった気がした。