人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

渋谷→新宿・ちょっと安心

新宿ならいつもダンナと待ち合わせているので、ちょっとは安心だ。

他の街に出てわかったが、新宿は洗練されていないオヤジ街である。

しかし、私にはこっちの方がなんぼ居心地いい事か。

娘ぶー子の事をすっかり忘れていた。

朝、「今日は歯医者に行く。」とそれしか言ってなかった。

もう6時半だ。私はこっちで夕食を目論んでいる。

「冷蔵庫の残り物でしのいで下さい。」そうとだけメールで送る。

「今日も残業?」と返事。

ええっ?仕事行ってると思ってたんだ。

歯医者と言ったけどね・・・。でもまだ新宿でこれからダンナとご飯を食べると聞いたら怒り出すかもしれない。

「歯医者に行くって言ってあったじゃん。」と曖昧に返して終わらせる。

さて、晩ご飯どうするか。

今日は、行きに1食、帰りに1食ラーメンを食べようと思っていたが、1食目のラーメンがかなりこってりで重く、今度はもうちょっとあっさりしたものが食べたい。

「どうする?」

「どこがいい?」

毎度の事だが、ラーメン屋とランチバイキングの情報しか頭に入ってないのだ。

またダラダラ歩き回って悩む事になるのか。

「HOT PEPPERで情報とクーポンを・・・。」

そうだ、このフリーマガジンはケチぽ子の救世主だ。

おいしい情報満載、クーポン券、考えただけでワクワクしてくる。

「どこかでHOT PEPPERをゲットしてビールでも飲みながら考えよう。」

無料本+ビールのカップリングを思いつき、ゴキゲンなぽ子。

靖国通り沿いのスタンディング・バーに入る。

小さいがシャレた店で、一度入ってみたかった所だ。

スタンディング・バーと書いてあったが、実際にはスツールがあった。

このスツールが非常に背が高く、座るのに一苦労だ。カッコつけてコロナビールを頼んだが、これではカッコよさはプラマイゼロだ。

そんなオシャレな店で決めた今夜の食事処は「居酒屋 甚八」である。安さが決め手。

よくあるチェーン店の居酒屋だ。つぼ八とか一休とかそんな感じの。

しかし結局はこういう店が一番いいのだった。

ジャンクでも安くてガッツリ食べたいのだ。

軽く飲み食いして帰るつもりが、エルの話で盛り上がってしまい思いがけず長居してしまった。

エルはどんなにかわいいだとか、あの頃のエルはだとか。

たとえばエミネムのファンが2人集まったら、その良さを延々と語る、そんなようなものか。

私達は同じようにアホ程エルを愛しているのだ。

そしてこの会話を阻む者も遠慮させる者も、ここにはいない。

つまり果てしないのだ。

「あのときダンナが助けてくれたから・・・。」

「いやいや、ぽ子が頑張ったから・・・。」

無益な会話だ。

しかし時間はどんどん流れていく。

「今、ドコ?」

ぶー子だ!!忘れていた。

ダンナと飲んでこんなに時間が経ってしまったなんて言えない。

「もうすぐこっちを出るね。」と「こっち」の場所すら言わず、花男を観てるぶー子に「類はカッコいいか?」と振る。

家に帰って分かったが、私が類だと思っていたのはじつは道明寺であった。

無理して仲間になろうとするとこういう失敗をする。

10時半頃出てやっと電車に乗る。ダンナはすぐに寝てしまった。

小平に着くと「もうすぐだよ~。」とメールを送った。

ところが駐輪場に向かう途中のラーメン屋の前を通ったら、無性に食べたくなってきた。

「食うか。」

ぶー子には「ごめん、もうちょっとかかりそう。待っててね。」とメール。支離滅裂だが、今度はDVDを観ていたらしくあまり関心を示さなかった。

「あとで私も一緒に観たい~~♪」と甘えてごまかし。

ラーメン食べたら「・・・ちょっとぶー子、かわいそうになって来たんだけど・・・。」とダンナ。

帰る、帰る、と言いながらもう11時半だ。

じゃあコンビニでお土産買って行こう。

「お土産買って帰るからもうちょっと待っててね。」また「待ってて」だ。

しかしコンビニは女子高生の土産を買うようには出来ていない。

なかなか決まらずハシゴすることにした。

「・・・まさかお父さんと飲んでたとか言わないよねぇ。」そんなメールが来たのは2軒目のコンビニに向かっている時だ。

いやぁやっとそう来たか。しかしこの言い方、事実を知ったら怒りを買いそうだな。

どう返事をするか考えていたら今度はダンナの携帯が鳴った。

「今ドコ?」だそうな。

本当に気付いてなかったんだな。

ダンナは「午後仕事休んで病院に行って来た」と送ったようだが、ここまで言っても気付かなかった。

曖昧にしたまま2軒目のコンビニに入る。

ぶー子は2軒ハシゴしていることは知らないので、いい加減遅すぎる、とやっと怒り出した。

「もう本当にキレるよ!!」

おお、急に態度が変わった。急いで帰ろう。

意図してはいなかったが、私の1分ほど後にダンナが家に入って来ると、

ぶー子は「あれ?お帰り。」と言った。

本当にわかってないのか。

騙すつもりはなかったが、胸が痛む。よし、最後までDVDを一緒に頑張って観てやるぞ。

気が付いたらダンナも私も寝ていた。

本当にぶー子の精神面は大丈夫だろうか?

心配になった。