リサイクルショップで小さなテーブルを買いたいから手伝って欲しいと、父から連絡が来たのだ。
この頃やっと母のことも踏ん切りがついてきたようで、部屋を整理して模様替えなど始めている。
「もうこんなんはいらないから。」そんな感じで、母の使っていたベッドや大きなソファを処分。
改めて形見分けのようなこともした。
テーブルは確かに小型のものではあったが、ガラスが入っていて結構重かったのだ。
管理人に言って台車を借りた方がいいと提案すると、「いや、いい。」と歯切れが悪い。
どうも管理人とあまり関わりたくない模様。恐らく何度かトラブっているのだろう。
「私が言うから」と言うと余計にムキになり、「それはもっと嫌だ、オレが運ぶからいい。」と一人で持っていってしまった。
「オレな、こう見えても力持ちなんだぞ。」手伝って欲しいと言って来たぐらいだ、本当は私をアテにしていたのだろう。おかしな展開になってしまった。
玄関まで運び込んで一息つくと、「じゃあ」と父は私を家の中へと促した。
「じゃあ」しかし私は逆の「じゃあ」である。
申し訳ないが、時間が惜しい。やらなくちゃならないことが常に控えていて、気持ちに余裕がないのだ。
なんでそんなに忙しいんだ、と良く言われるが、私も知りたいわ。専業主婦のくせになんでこんなに忙しいんだ。
恐らく要領の悪さと、やりたいことを欲張っていることと。
父のために時間を作ることはできるはずだ。それでも私はできるだけイレギュラーを小さくしたかった。薄情な野郎だ。
「時間がないんで、今日はもうこれで。」と言うと、父は一瞬呆気にとられてから、非常に分かりやすい残念そうな顔をして押し黙った。
そしてすぐにハッとして「そうかそうか、忙しいんだよな、ちょっと上がってってもらおうかと思ってたけど、それじゃちょっと待て。」と言い、奥に引っ込んだ。
やがて現れた父は、丸ことのスイカを抱えていた。
「オレ、糖尿だから甘いものはいけねぇんだよ。お前、持ってきな。」
私と食べるつもりだったのだろう。
スイカ。
それを抱えて、私は父と別れた。
この後味の悪さ。
「ノー」と言えないことでこれまで、多少なりともストレスを抱えて来た。もう少し自分勝手になってもいいだろうとこの頃は無理はしないようにしている。
しかしそれは、こういう後味の悪さを抱えることになる、ということでもあるのだ。
父と食べるはずだったスイカは、娘らのところに半分分けて、半分はダンナが食べた。
結局私も父も食べることはなかったのだ。