父と兄と会って、飲んだ。
母が亡くなってから、割と頻繁に会うようになったのだ。
私も兄も忙しいが、やはり父を放ってはおけない。
むさくるしい父が、トレンチコートの中にペイズリー柄のスカーフなぞして現れ、ちょっと嬉しくなる。
「母とは必ずまた会えると思うようになったから、全然悲しくなくなっちゃったんだ。」と言ったら、父は泣いてしまった(笑)
また会えるという考えか、それとも私が悲しくなくなっちゃたからか。
考えてみれば、良く分からん涙であった。
家族として多くの時間を過ごした間柄である。昔話になると、話は尽きない。
お互いにこの歳になると体裁を繕う必要もなくなり、裏話的に「あの時は」、「実は」というような話が出て来るのが面白い。
昨日聞いた驚きの話は、「ゴルゴ13」であった。
父は定年間近まで、出版社に勤めていた。
あのような性格なので、「鬼課長」として恐れられて(疎ましがられて?)いたらしいが、人付き合いは好きで、あまり家には帰って来なかった。
その頃良く一緒に飲んでいた部下が、ある時、マンガの「ゴルゴ13」を勧めてきたという。ダンボールにいっぱいのコミックが我が家に送られてきた。
私も覚えている。父の部屋のダンボール。2つぐらいあったんじゃないかな?
マニアックなファンだったとのことで、彼が必死で集めた珍しいものもなかには含まれていたという。
それがある日突然、消えたというのだ。ダンボールごと。
「ぽ子、お前捨てたか??」
「はっEE:AEB2Fなんで私がEE:AE5B1私も読んでたのに(笑)」
「じゃ、お兄ちゃんか。」
「オレも読んでたし(笑)」
「やっぱりお母さんか。」
聞けば母が父のダンボールを勝手に処分したのは、初めてのことではなかったらしい。
肝心な部分を言わなかったので、理由は分からない。いくらなんでも勝手に捨てるとは考えにくい。
邪魔だからどうにかしろ、ぐらいの警告はあったんじゃないかと思われる。
「で、どう落とし前をつけたのEE:AEB2FそれメチャクチャやばいんじゃないのEE:AEB2F」
「そうなんだよ、俺も困っちまってよー。」
「ちょっと、聞くのが怖いEE:AE5B1」
「このままにしておく訳にもいかないから、呼び出したんだよ。飲みに行ってさ。」
「(ドキドキEE:AE5B1)」
「で、な。『本当に済まない。』ってな。」
「でEE:AEB2F」
「そしたら向こう、『え、もしかしたら』ってな。」
「すぐ分かったんだEE:AE482で、結局どう責任とったのEE:AEB2F貴重なのも全部なくなっちゃったんでしょEE:AEB2F」
「そりゃあ俺も会社の上司としてだな、やる時はやる。」
弁償?あんなにたくさんあったのだ。一体いくらぐらいのものなのか、もはや明確にはできないだろう。
「こうしてな、・・・。」
父はそこでテーブルの上を少し空けて、おもむろに手をついた。
「『本当に、済まなかった』。」
・・・・・・・・・・・。
「えっ、土下座EE:AEB2F」
「そう。」
「それだけEE:AEB2F」
「そうだ。」
これが昭和の正しい解決法なのか、私には判断できない。
しかし力の弱い者が理不尽な思いをするということは、いつの時代もあまり変わらないようである。
私も土下座して差し上げたい。