春も深まり、だいぶ暖かくなってきたことを実感しているが、夜ともなるとまだ寒い日が多い。
昨日なんかも結構冷えたので、寝る前にエアコンを回したのだ。それでも、部屋が温まる前に寝てしまった。
こんな春の寒い夜になると、思い出すことがあるのだ。中学2年生の春のこと。
新学期が始まった。
中学生になってからというもの、私は親と衝突することが多くなっていた。
その日もなぜかは忘れたが、母と激しいケンカをしたのだ。
母は私に「出ていけ」と言う。
父も母も、収拾つかなくなるとすぐに「出ていけ」と言うのだ。私はそれが卑怯に思えて仕方がなかった。
出ていけるはずはないと思っているのである。
困ると分かっていて、言っている。
それが悔しくて、私はそのうち本当に出ていくようになった。
しかしやはり、行くところもなく困ることになる。
結局帰るしかないのだが、それでも「出ていけ」と言ったことを後悔させてやりたかった。心配しやがれ。
軽い気持ちで出ていけなんぞ言えば、私は本当に出ていくんだぞ。
出ていった時間など覚えていないが、結果的に私は外でひと夜を明かした。
長くて寒い夜だった。
行く場所なんて、なかった。
冷たい風をしのぐために、近くの団地の階段で縮こまって過ごした。
本当に、長くて寒い、夜だった。
春だというのに、こんなに夜は寒いんだと思った記憶がある。
こんな夜に、家で、温かい布団で眠れるのはありがたいことなんだ、親に感謝しなくては。
などとは到底思えなかった。
そう思えたのは、40年後の春の夜である。
母は今、冷たい墓の中にいる。