人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

旅の始まり

7時半、羽田空港集合。

5時半の高速バスに乗るためには、5時13分の電車に乗らなくてはならない。

駅まではまだバスがないので、歩く。余裕をみて40分。

4時には起きて、4時半出発の予定であった。

 

ところが前日は金曜日である。外で「軽く」飲むつもりがワインに突入、日付が変わる前に家に帰ったが、そこから翌日の準備だ。

酔っていたので楽しくやったのはいいが、地獄を見るのは朝である・・・。

 

アラームが何度か鳴っていたので、完全には寝入っていなかった。ダンナが階段を駆け上がってくる音に気がついた。

「大変だッ!!もう時間がない!!あと10分で出る!!」

ハッとして時計を見ると、4時半であった。

 

一体駅まではどれぐらいで着くのだろう?

久米川駅までは何度も歩いているが、東村山駅はあまり歩いたことがない。

恐らく40分というのは相当余裕をもっていると踏んだが、実際のところはどうなのだろうか。

そんな考えがよぎり、実はあまり焦ってはいなかった。

まぁ準備は極限まで済ませていたし、化粧もバスの中ですればいい。

家を出た時間は分からなかったが、ダンナが分かっているはずだ。

彼が急げと言っているうちは急げばいい。

 

家を出て時計を見たダンナは、「もう走らないと間に合わない!」と言った。

ええっ!?そんなヤバいの!?

私達は走った。

まだ暗い町の中を、ひたすら走った・・・。

 

走っても走ってもダンナは、「もう大丈夫だ」と言わない。つまり走っても走っても時間がないのである。

電車を逃せばバスも逃すことになる。その先のことは分からない。とにかく走るので精一杯だ。会話どころではない。

 

走っても、走っても、走っても、「大丈夫」はない。

もう駅まではあとはまっすぐ行くだけなのに、お許しは出ないのである。

ところで私はそんなにタフではないので、相当くじけていた。

ジョギングをやっていたことはあるが、このように自分の力量以上のものを必要としたことなど皆無だ。

走りながらパニック映画などで逃げるシーンと重ね、「もう死んでもいい」と思った。私は諦めて死ぬ方を選ぶ。早く楽になりたい。

 

やがてダンナがやっと言った言葉は、「あと5分!」であった。

無理だろ、どう考えても無理だ。

しかし5分だ。あと5分でこの苦痛から逃れられるのなら、あと5分だけ頑張ってやる😂

 

赤信号。

赤信号は「止まれ」という信号である。

車はほとんど通っていない。すなわちこの場合は「行ってしまえ」になるのだが、大きな問題があった。

我が家には4匹の猫がいて、その中の1匹が死にかかっていた時期があった。

そんな頃、私は毎日病院に通いながら、神頼みをしたのである。

お願いします神様、どうかエルの命を助けてください、今後私は信号無視をしませんので、どうか助けてください・・・。

 

命と信号無視の重さがイーブンなのが胡散臭い神頼みである。

しかし私は心のどこかで恐れていたのである、自分が禁を破ることを。だからこのように難易度の低い条件を出したのであった。

なのでその後8年間、あからさまな信号無視はしないでけがれなき誓いとなっていたのであった。

 

だから躊躇したが、ここで待ったら絶対に間に合わない。

集合時間に間に合わなければ、人に迷惑がかかってしまう。

家に帰ってエルが死んでいたりしたら私は相当自分を責めることになるだろうが、神を信じる!!ここはGOっすよね!?

 

ふたつの信号を無視し、やっとダンナが「もう大丈夫だ」と言ったのは、駅の構内に入ってからであった。

間に合った。死ぬかと思った。

ペットボトルのお茶を買って渇きを潤し、息を整える。

 

「・・・どこから間違ってたの?昨日の酒か?」

「金曜の夜だよ、あれは仕方ないよ。」

「じゃ、これが最善・・・。」

 

バスに乗ってメールをチェックすると、電車組の仲間たちはすでにいくつかのやりとりをしており、「今からコーヒーを入れる」「準備しまーす」などと、優雅である。

 

とりあえず追いついた。これで予定通りなのだ。言わなきゃ誰も分からないくらいのブレじゃないか。

おにぎりとサンドイッチを食べて、目を閉じた。

旅が始まる。