「あれっ!?声、どうしたの??」
数年ぶりに会った友人は私に聞いてきた。
「ん??何か変??どうもしてないけど?」
彼女の言う意味がわからず聞き返したのだが、どうやら私の声はここ数年で、ひどく変わってしまったらしい。
恐らくその変化は緩やかだったのだろう、自分は気づいていなかったのだ。
確かに、飲み過ぎたり歌い過ぎたりしたあとは、声が嗄れることが多い。
そういう変化は自覚していたが、あの時は私にとって「普通の声」だったのである。
しかし彼女に言わせれば「嗄れている」らしい。
私の普段の声は、「嗄れている」ということである。トホホ。
どうりで合唱も嗄れている訳である。
それでもバンドで歌う分には支障はないと思っている。高音はずいぶん出なくなったが。
支障はないと言っても、問題はあるにはある。
無茶をするとすぐに喉を壊すことだ。
だいたい練習では妖精を降ろすために飲んでいるが、そのまま練習が終わっても飲み続け、羽目を外し、つまり絶叫したり頼まれもしないのに大声で歌ったりして、翌日は声が出ない、ということが多過ぎるのだ。
これまでもこの調子で、ライブ前に声が出ないという事が何度かあった。
冷や汗モノだが、こうなったら無理にがなって出すしかない。
最近のライブでは、もうサビ全く声聞こえません、なんていう酷い状態のものもあった。
自己管理が甘いことは否めないので、せめてライブ前の練習は控えめに大人しくするように努力していきたいが、いかんせん敵は酒である。飲まれてしまったらもうコントロールが利かないのだ。
嗄れてしまってから打てる手はないのか、私はずっと考えていたのだった。
それが、世の中にはライブ前に喉を壊すトーシロの大タワケがいっぱいいるのである。
そんな人のための2ちゃんねるのスレッドも、しっかり存在していた。
喉を暖める。
マスクをして寝る。
乾燥を防ぐためにのど飴をたくさん舐める。
沈黙療法。
生姜。
はちみつ。
盛りだくさんだが、どれも即効性がない。
童話「狼と七匹の子やぎ」に出てくる狼は、チョークを食べて声をきれいにしたが、本当にきれいになるならチョークを食べたいぐらいである。
ところがこれが、あったのである。チョーク。魔法のチョークが。
漢方薬らしいのだが、多くのボーカリストがこれで救われていた。
即効性も効き目もすごいと評判である。
かの魔法のチョークは、
響声破笛丸という。
なんて効きそうなネーミング。
惚れた。一目惚れならぬ、一聞惚れだ。
先週のヒトカラで声が嗄れたので、早速薬局で買ってきたのだった。
しかし3日分で約1500円。安くはない。
ライブもないのに使うのはためらわれる。
比較的早く治ったので先週は飲まなかったのだが、昨日のヒトカラでまた嗄れた(笑)
もー早く試したいじゃないか。良くぞ嗄れてくれたぐらいのものである。
だいたいライブ当日に飲んで効かなかったらどうするのだ。
これは事前に試すべきではないのか。
ひとりで楽しんでしまうにはもったいないので、ダンナが仕事から帰るのを待った。
二人で実感できれば、半額である。
ダンナめ、家に帰ってきて私のこの声を聞き、まずつらい練習だったことに涙するだろう。私はボン・ジョヴィの転調に耐えられなかったのである。
でも大丈夫よ、私は彼の肩を叩いて「響声破笛丸」を見せる。
ああ、この薬を飲むとどうなるのだろうか。
もともと嗄れていたのだから、そこも修復されてマライヤ・キャリーみたいに甦るのだろうか。
「ただいまー。」
「おかえりー。」
あれ??
「おかえりー。」
あれれ??
「アーアーEE:AE5BE」
「??」
声、治ってるやんEE:AE5B1
専業主婦の定めで話し相手がおらず、図らずも沈黙療法になってしまっていたのか。
どうやら、さほど酷い状態ではなかったようだ。
喜ばしいことなのだろうが、歌がうまくなった訳ではない。
発声が良くなったぐらいは思わないとやってられん。
本来は飲まずに済めばそれにこしたことはないのだろうが、残念なのが正直なところである。