人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

騙された

本当は「騙された」などと言う人聞きの悪い言い方をしてはいけないのだが。

悪いのは自分である。

昨日の事だが、ラーメンを食べた後に近所のDIYショップに行きたいとダンナが行った。

よそ様のご主人はどうか分からないが、ぽ子のダンナは本当にこの手の店が好きである。

ドイト、Jマート、ビッグサム。

昨日行ったのは、ドンキ化が進んできたドイトである。

目的の物は、灯油をタンクに移すポンプであった。

結局目当てのものはなかったのだが、じゃあ帰ろうとならないのがダンナとドイトの関係である。

「ないなぁ。じゃあ他の店で見よう。」

そう言いつつも、どんどん店の奥に入っていく。

私はモップだとかベニヤ板だとかいった類には魅力を感じないので、ただダンナのあとをダラダラ歩いていた。

すると前方に、実演販売発見。

「見て下さい!!普通のワックスならこうはならないんですよ。何でかと言うと・・・。」

マイクまで使って実演販売人は熱く語りかけている。

ターゲットにされているのは30代ぐらいの男性。

他に聞いている人がいないので、タイマン勝負になっている。

気の毒に。

私が彼のような立場でも、きっとその場を去れずに最後まで聞く運命だろう。

他に客が来るのを心から祈り、その隙に逃げようと思うのだが、販売人の視線がそちらに流れていかない限り、私は動けないだろう。

「ホラ、このヤスリは120番と言って、かなり粗い物です。こんなもので床をこすったら、普通は大きなダメージを受けます。だけどこのワックスが塗ってあれば・・・。」

ワックス・・・。脱力。

そんなん買うかよ、こんな所でアンタに勧められて。

「このワックスが塗ってある限り、上から塗ればすぐに元通りなんです!」

彼は、削れて白く粉をふいているフローリングの上を、かのワックスのついたモップでスーッと撫でた。

このワックス、凄いぞ!!

細かい傷がなくなっただけではない。

ピカピカなのだ。

「ちょっと、あのワックス凄いよ!!」

私はダンナの腕を引っ張って、販売人の側に出た。

「これはね、2年ももつんですよ。嘘ではありません。ワタシ何年もこうしてワックス売ってますがね、自信を持ってこれが一番です。」

一番!!

ワックス販売人のワックス人生で一番!!

「これはね、誰にでもきれいに仕上げられるんですよ。ホラ、この専用のモップでこうしてやるだけで、あ、ワックスのつけすぎにだけは注意して下さいね。」

本当だ!!きれいに仕上がってる!!

「しかも今ならこのモップとクリーナーをセットにしておつけします。」

そう言って彼はさらにゴソゴソの大きな鞄に手を突っ込んだ。

もっと何かつけてくれそうだ。

「・・・欲しいよぉ~~~・・・。」

ついに我慢ができなくなって、ダンナに言ってしまった。

「ええっ!?」

こんなものを急に欲しいと言ったので、ダンナはたまげている。

「これが塗ってあれば、傷がついても大丈夫だし、誰でも塗れるし、2年ももつんだよ!!」

「・・・誰がやるの・・・。」

「私、私♪。」

「・・・・・(汗)」

仕方ねぇな、と言うようにダンナはワックスの並んでいる棚を見た。

「・・・5千円・・・。」

「お客さん、本当はこれはどこへ行ってもこの値段じゃ買えないんですよ。他へ行ってもらえばわかると思いますが。」

販売人は完全にターゲットをこちらに変え、先程「おつけします」と言ったセットを手に寄ってきた。

「家にね、お客さんなんか来るでしょう。そうするとね、いくらかかった??って聞かれるんですね。だからこう答えるんですよ。」そう言って彼は手の平を開いて5本の指を立てた。

「??」

「こうするとみんな、50万だと思うんですよ。業者に頼むとそれぐらいかかりますからね。でも実際は5は5でも5千円です(笑)」

「買ってよ~~~(泣)」

「んーーーーーーーー・・・・。」

しかしなかなかダンナは首を縦に振らない。

「ピカピカになるよ~~~~。」

「俺もピカピカ好きだけど・・・。ぽ子にできるの??」

「だからさっき『誰にでも簡単にできる』って言ってたじゃん!!」

「う~~~~~・・・。」

結局買った。

ダンナが納得したのではない。

私がここまで言い出したら、引っ込まない事を知っているのだ。

ワックス販売人は自らの携帯の番号まで教えてくれ、わからない事があったらいつでも電話下さい、と言った。

私は満足であった。

「・・・いつやるの?大変だよ?」

??大変??

そうだな、少しずつって訳にはいかないのか。

ちょっと待てよ?

テーブルとかソファはどうするんだ??

「・・・どけるんでしょうねぇ。」ダンナは冷たく言った。

ワックスをかけるためには、家具をどかさなくてはならない。

そして、床の汚れを落とさなくてはならない事にも気がついた。

ダンナはフローリングの溝の部分もきれいにしたいと言った。

これは・・・・・。

思ったより大変な事になったぞ・・・・・・・。

一人では無理だ。

そうなると休日、ワックスがけで潰すことになる。

GOD、私のホリデーが。

こうなったらもう、飲みながらやるしかない。

可愛いペットを衝動買いしてしまったが、思ったより世話が大変だった、そんな感じである。