そもそもビオトープ睡蓮鉢は、3つあったのだ。
1つはもう以前に全滅してから放置、1つはいつのまに針子が湧いていて稚魚天国、もう1つは卵を孵してやはり稚魚天国となっていた。
これもほとんど越冬できず、結局たったひとつの睡蓮鉢に数匹が残るのみとなっていた。
そして今、残っているのは1匹だ。
ここには1匹体の大きいのがもともといて、後から入れた稚魚をつついていじめるのが気になっていた。
しかし放置の睡蓮鉢に移すには水質が心配だったし、稚魚がいる睡蓮鉢に移しても同じことになるだろうと思ったのだ。
この1匹のために鉢を立ち上げる気力もなく結局そのままにしていた結果、残ったのはこの大きいの1匹となってしまった。
稚魚をいじめて憎たらしいと思ったこともあったが、今となっては健気なやつだ。これを心の中で私は、ヌシと呼んでいる。
手をかざすとエサを求めて寄ってくるのだ。
健気なやつだ。
そのヌシの鉢も、厳しい状態になっている。
なぜか分からないが、水草が育たない。
夏が暑かったので、ずっと遮光していたのが原因か。
そのくせアオミドロはすさまじく成長した。
ある程度は取り除いたが、他にまともな水草もないので、これも水草とみなして残している有様だ。
空になっていた鉢のひとつはリセットし、パイロットを入れてはみたのだが、どれも長生きできなかった。
もう、立て直す気力がない。
ヌシが最後の1匹になるだろう。
また気が向いたら新たに始めるかもしれないが、それは今ではない。
その日は来ないかもしれない。
今はまだ、考えたくない。
ヌシのお腹はプックリ膨らんで、おかしな体型になっている。
しかしこの状態で安定しているなら、もう余計なことはしたくない。手を加えるなら少しずつ、ヌシがその変化に気付かない程度に留めたい。
最後の、ヌシ。