ベランダの睡蓮鉢を支えていたラックが錆びてきたので、睡蓮鉢を移動させたのだ。
日当たりのキツくない、玄関へ。
中にいたメダカはすでに他の鉢に引っ越しさせたので、水草だけの鉢になっていた。
ここには今年採卵した卵を入れていくつもりだったのだが、他の鉢から持って来た水草に卵がついていたらしく、ある日稚魚が生まれていたので驚いた。
「針子」と呼ばれる、1センチほどの小さな小さな稚魚だ。その細い胴体に、目玉だけが確認できる。メチャクチャ可愛い。
現在はこの1尾が、直径40センチほどの睡蓮鉢を独り占めしている。
「メダカでもいるんですか?」
昨日のことだ。新聞の集金に来たいつもの女性が、鉢を見て聞いてきた。
いる。
いるけど、メダカ、・・・というか、まだ目を凝らさないと見えないほどの稚魚だ。よくぞ聞いてくれた、可愛いのだ、言いたくて仕方がない。
「メダカ・・・、はい、そうなんですけど、あの、最初はカラッポだったんです。そこにですね、他のところから水草を入れたらですね、そこに卵がついていたみたいで、それが生まれて今はその子が一匹だけいるんです。」
舞い上がってしまった。「ハイ、稚魚が1匹。」でいいじゃないか。しかも説明、分かりにくいぞEE:AEB64
集金レディは「開けてはいけない扉を開いてしまった」みたいな顔をして、「そうなんですか」とだけ答えて、愛想笑いをした。
恥ずかしい。
「なんちゃってね、アハハ」と心の中で付け足す。
しかし、可愛いものである。
住民のいない鉢はどこか無機質で、全く関心が向かなかった。
そこへこんなに小さな命の、存在の大きさ。
針子のシーズン、到来だ。