18時30分。
まだ日は落ちておらず、ヌッタリと暑い夕暮れであった。私はミツコと夜の散歩に出る。
楽しみにしていた散歩だ。ミッツは喜んでグイグイとリードを引いていく。待て、と制御しながら進む私。暑い。もう今日は、少し短いコースにするか。
マンネリコースだ。
運動公園の方へはダンナが朝連れて行っているだろう。
スーパーの方はミッツが超絶嫌がるので、こんな日に気合い入れて行く気にはならない。
結局毎日、病院方面だ。はいはい、この先またグイグイポイントね。待てったら。
暑いのでコースをショートカットし、今週のお題について考えながら歩いていたら、
「??」
10センチほどの細長い物入れが落ちていた。
可愛らしい模様が入り、まだ新しそうな綺麗なものだ。
私はそれを拾い上げ、ちょっと迷ってから中を開けてみた。お金なら交番に届けるし、歯間ブラシなら置いてく。
鍵であった。
お金ではなかったが、持ち主にとっては無くなると困る大事なものだろう。届け出ることにした。
こんな面倒をする気になったのは、派出所が近かったこともある。
ところが派出所には誰もおらず、「こちらにおかけください。警察署に繋がります。」という電話だけが置かれていた。
面倒臭い予感がしたが、それ以上に考えることが面倒だった。暑かったのである。私は電話をかけた。
10分から15分ほどで、警察の人が来るという。つまり、ここで10分か15分待て、ということだ。
嫌だと言ったらどうなったんだろう?言えば良かった。
こんなクソ暑い中、何もせずにボケッと10分から15分も待つなんて嫌じゃ。
しかし会話とは時の流れの表れであり、流れるように進んで行くものである。考える間もなく「はい」と言ってしまった。あぁめんどくさ。
こういう時の「10分か15分」は、得てして15分である。
暇だ。暑いし、暇。
私はいつも、朝のうちに15分きざみのスケジュールを立てている。こうしないと、脱線ばかりして家事がはかどらないからだ。結果、これでもなかなかハードな一日を送っている。
そんな中での15分である。発狂するほど惜しい。
15分もあれば、何ができる?そして今私がやっていることは何だ?
アホのように派出所の前を徘徊していると、私が来た方から、初老の女性がこっちに向かって歩いて来るのが見えた。
背中を丸め、地面を舐めるように見ている。
・・・もしかして。
とうとう女性は派出所の前まで来て、その扉を開けようとした。
「あの、もしかしてこれをお探しですか?」
女性の顔が、パァッと明るくなった。警察官が来たのは、この時であった。
もうカタはついているのでじゃサヨナラで帰りたかったが、そういう決まりなのか、住所と電話番号と名前を聞かれる。
一刻も早く帰りたいのだ、サッサと答えて「では」と逃げるようにその場を離れたが、しばらくして振り返ると女性が凄い勢いでこちらを追って来るのが見え、すまんが逃げて来た。
見返りが欲しくて拾ったのではない。しかしこれ以上時間を奪われるのは御免だ。
思いがけないダッシュのご褒美に、ミッツは喜んで走った。
家に着いて、私もミッツもグッタリ伸びる。
暑かった。
まだ夏は、終わっていない。