ダンナの仕事が忙しいので、ミッツの朝の散歩は私が行くようになった。
早めに終わらせたくできるだけ早く出掛けるようにしているが、この季節の朝は、早いほど寒い。
ワークマンで買った防寒ズボンに厚手のパーカー2枚重ね、ネックウォーマーをしてダウンを着る。
それでも朝の散歩は夜よりもずっと気持ちがいい。
一日が始まる。
まだ元気はたっぷりあるし、「今日もできなかった」などという反省もしなくていい。
希望とスタミナ、昇って来る太陽。
今日はどのコースを行こうかな、と考えるのも、いちいち気分がいい。日当たりの良さそうな、川沿いを行くことにした。
まだ8時前だ。犬の散歩をする人に限れば、少ない時間帯である。
なにしろミッツはよそ様の犬を見ると吠えるので、できるだけかち合いたくないのである。この隙にサッサと済ませてしまいたい。
しかし川沿いの遊歩道ともなると、「散歩をしたい人」が集まって来るものである。前方からポメラニアンを連れた男性が接近。
近付かないよう、遊歩道の逆の端を行く。ミッツはまだ気づいていない。
ポメはのんびりと散策していてあちこち嗅ぎまわっていたが、ミッツの姿を認めるとこちらを凝視した。気になるらしい。
右往左往しながら、軽く飛び跳ねている。男性はポメに合わせ、足を止めた。
むー、困った展開だ。どうやらポメは友好的な感じである。そして気配を感じたミッツは、そちらへ行こうとグイグイ引っ張り始めている。
この時点でミッツが吠えていないと言うことは、上手くやれるパターンだ。しょうがない、付き合ってやるか。
私自身は他人との会話が苦手なのでできれば避けたい事態ではあった。しかしこれを振り切っていくのは、あちらの飼い主さんにも失礼なような気がしなくもない。
ミッツが引っ張るに任せポメ方向へ向かうと、それを見て取ったポメチームもこっちに寄って来る。
「おはようございます。」
不思議なもので、お互いに犬を連れているというだけで他人度のハードルは下がる。上手く言えないが、「同じ穴のムジナ」みたいな感じか(笑)
年配の男性は、定年で家にいる時間が増えてしまった、犬のお陰で一日二回こうして外に出ることができている、と言った。
「犬に助けられてます。もう犬のいない生活は考えられません。」
ネットで、飼っていた犬が死んでしまうと飼い主が健康を崩すという話を読んだことがある。精神的に参るという意味ではなく、散歩の習慣がなくなるからとのことだ。
考えてみれば私も、家での運動(ブートキャンプだ笑)をやらなくなって久しい。
一度動かなくなるととことん動かなくなり、今では体のあちこちがガチガチに固まっている感じがある。
それでもこうしてミッツを散歩に連れて行くことにより、幾ばくかの運動にはなっているのかもしれない。
男性の口調は、穏やかだった。犬と、静かに幸せに暮らしていることが感じ取れる。
「それでは」と一歩離れたあと、ふと犬の名前を聞きたくなった。
小さな黒いポメラニアンに似つかわしい、和風の名前だった。
そして私も答える。「この子は・・・、」いつもちょっと恥ずかしい。「・・・みつこです😅」
すると男性はちょっと驚いたようなお顔で「僕、みつおです。」と言ったので、ふたりで大笑いをした。
知らない人と話をするのは苦手だが、朝の空気のせいか、それはちょっと心地がよかった。
一日が始まる。
私にも、みつおさんにも。