悪口は、良くない。
聞いて気持ちの良いものではないし、そんなものを人に聞かせるべきではない。それが大人というものだ。
しかし対象が有名人だと、話は違ってくる。
私達は本当のその人を知らない。あくまでテレビや雑誌、インターネットを通した偶像なのである。その偶像についての感想に過ぎない。だから平気で叩くのである。
まぁ有名税などともいう。私達も、それに甘える。
不特定多数に向けなければ、感想ぐらい言ってもバチは当たらんだろうというのが私の考えだ。
しかしこの場では不特定多数に向けていることになるので、それが誰かは伏せておく。
嫌いなのがいるのだ。
定期的にその声を聞かなくてはならないので、苦痛なのである。
伏せると言っても分かる人には分かってしまうだろうが、それはあるスポーツの解説をしている人だ。
ダンナが好きなスポーツなので、シーズンになると毎年中継を観ているのだ。同じ部屋にいれば、嫌でも聞こえてくる。
もう長く解説をしている人で、そういう意味では大ベテランである。
そこに胡坐をかいているのか、物言いが上目線、独りよがりで、もはや解説というよりも自宅で友達に語っているが如くなのである。
「この人、これでいいの?」ダンナに聞いたことがある。
「うん、まぁこの人はこういう人だから。」さほど気にはならないようだ。
私はといえば、いちいちその「素で語り」が気になるので、わざと真似をして繰り返したりしてみる。
それでもダンナは乗って来ないので、どうやら私の悪口は、あまりお気に召さないようであった。
とは言え、あの甲高い声やタメ口が聞こえてくると、嫌なあまりに耳がそっちを向いてしまう。私も懲りずにまた真似をしてしまう。ダンナは反応しない。
「ねぇ、この人の解説、嫌じゃないの?」私は焦れて聞く。
ダンナはテレビ画面を観ながら、キッパリと言い切った。
「大っ嫌い。」
痛快だ。
もうこれが聞ければ、十分である。私は満足した。
ダンナは黙ってテレビを観ている。
解説は続いている。
こうなるともはや、漫才のように聞こえてくる。
おっかしな解説だ。
ダンナの嫌い認定により、苦痛は減った。私はこれからも、真似をする。きっとダンナもスカッとしてるに違いない。
古館さんが良かったな。