きっかけは、忘れた。飲んだ上での話なんて、そんなものである。私達はなぜか、松尾芭蕉の話をしていた。
およそ接点などない人物ではあるが、有名な句があったよね、と言っていたのだ。
それがかの「古池や 蛙飛び込む水の音」な訳だが、だからどうした、というこの歌が、妙に心に響くようになった53歳である。
静かな和庭園。
天気は晴れていただろうか、それとも薄曇りか雨か。
芭蕉は散歩でもしていたのか、ドポンとどこからか蛙が古池に飛び込む音が聞こえてきたのだろう。静寂を揺らせた、一瞬の命の音。
そんなことに趣を感じるようになるには、ある程度年齢を重ねる必要があるのかもしれない。
「他にもあったよね??『松島や、ああ松島や、松島や』って。」
「は??」
私はその句を聞いたことがなかった。なので最初は、ダンナが「松島や」以下が思い出せなくて適当に繰り返したのかと思ったのだ。
ちなみに先に書いておくと、この句は松尾芭蕉ではなく田原坊という人のものであった。
「いやいや、知らない?これでいいんだよ。松島って場所に感動している句だったかな。」
「!!」
ショックだった。
ふざけんな、と言うかやられた、と言うかなるほど、と言うか、いずれにしろそれはいい意味でのショックだった。
こんなんありか?と思いつつも、妙に納得がいくのである。なんとシンプルな表現なのだろう。
そこで私も一句詠んだ。
「えるちゃんや、ああえるちゃんや、えるちゃんや。」
なんとしっくりくるのだろう。
あなたもぜひ、大切なものを当てはめて詠んでみてはいかがか。
それが4文字であることを祈る。