水曜日。
先週に引き続き、お年寄り相手の絵のモデルのバイトであった。
前回は睡魔に負けそうになり辛い思いをしたので、今回は万全にして挑むつもりであった。
しかし「眠りたきゃ眠れる」という快眠ハニーであるなら、普段から寝不足に悩む事などない。
眠れないから寝不足なのだ。
いつ眠れるかは神の気まぐれにかかっている。
そして神は昨日もおとといも不機嫌だったために、前回よりも酷い寝不足で挑む事になってしまった。
会場である公民館の創作室に着くと、テーブルの配置を変え、イーゼルを運び出す。
ハイハイハイ、おばあちゃんたちは大変だから、自分の準備をしててくださいな。
それが済むと自分の支度だ。
支度と言っても、服を着替えて靴を履き替えるだけである。
にも関わらず、私は失敗をした。
「一枚足りない(汗)」
どうしよう、と母に指示を仰ぐが、足りなかった一枚は下着のようなもので、ワンピースの裾からレースがヒラリと見えていただけである。
「もう、今日はそのままでいいわよ。」助かった。が、
「それより、そのジーパンが違うわよね。」
母は、先週撮った写真を手にしていた。
見ると私が穿いていたのはジーパンではなく、黒いレギンスであった。
いいっ!?そうだったっけか!!
これじゃ全然違うので、そのままでという訳にはいかない。
「急いで着替えてくる!!20分で・・・」、戻ります、は聞こえただろうか。
私はサンダルのまま、車にすっ飛んで行った。
エンジンをかけたら「あのレギンスは誰のだっけ?」という考えが頭をよぎったが、これから車をすっ飛ばして家に戻らなくてはならない。
しかし私には「すっ飛ばす」などという芸当はできないので、それ以外の思考は一時シャットアウトである。
すっ飛べ。
ブゥウン!!
クラッチが上がりきらないままアクセルを踏み込むので、エンジンが唸る。
こんなに急アクセルなど普段しない、その賜物である。
しかしだ、今日の神は非常に機嫌が悪い。
何と家に着くまでの12の信号全て、赤で引っ掛かったのだ。
ミラクルだ。
こんなミラクルってないでしょ~(泣)
当然イライラする。
イライラするが、そこでイライラしては事故の元である。
これは神が私を試しているのだ。
どこまで平静でいられるか。
私は神への小さな仕返しとして、負けずに平静を装う努力をする。
その時私はカーステレオで、80年代の洋楽オムニバスを聴いていたが、たまたまダンス系の多いMDであった。
これは余計に私を苛立たせるので、私はわざわざMDを入れ替えて、映画「ゴジラ」のテーマソングを爆音でかけた。
カッカッカッカッとサンダルで床を蹴る音を立てながら創作室に飛び込むと、もうみんな、先週撮った写真を見ながら描いていた。
すみませんすみません、といいつつみんなの前に先週と同じポーズで座ると、5分もしたらすぐに眠くなってきた。
神(泣)
私何かしましたっけか。
今回は、どの20分ももれなく眠くなった。
ただ眠くなっただけではなく、その眠気たるや「寝る」の直前である。
どんな顔になっていただろうか。
モデルは後もう1回あるが、その日は出発直前まで寝ているつもりである。
もう「寝る事」もモデル仕事に含まなくては、私は9人の老人の前で大恥をかくことになるだろう。
「そのレギンス、先週とちょっと違うわよね?」
そして私が穿いてきたのは、丈のちょっと短い娘ぶー子のものであった。
9人の老人を含めて、私はあの中で一番アルツに近い人間かもしれない。