昨日のその後である。
パソコンを切ると私は片付けのためにガラステーブルに向かったが、とにかく眠いのだ、猛烈に。
で、その誘惑に勝ったかと言うと勝つはずはなく、私はガラステーブルの前にあるソファに座って目を閉じた。
まぁいいよ、部屋なんて基本、汚いんだから。
エルがたたみ掛けるように私の脇に入って寝る準備を始めた。
「流れに逆らってはいけない」というのは、私が経験からこの40年で学んだ事である。
夜はなかなか寝付けずに苦労しているが、この時私は眠りの扉に向かって爆走していた。
しかも扉は大きく開いて私を呼んでいる。
あとは両手を広げてそこへ飛び込むだけ、というその時、膝に乗せてあった携帯がブルルと震えた。
ダンナからのメールであった。
「今から帰るよ~~!!」という明るいメールを皮切りに、合計8通のメールが2、3分おきに立て続けに来た。
なんでこの日に限って・・・。
傾向として、女はメールが好きで男は苦手なものである。
私もダンナもその枠の中にいると思うが、メール好きな私に対してメールが苦手なダンナが、珍しくたくさんメールをよこしているのだ。むげにはできない。
しばらく頑張ったが、私がセットしたアラームは残す時間を40分ほどとしていた。
今見てみると、私の最後の返信3通は全て簡潔な絵文字のみになっていて、「眠い」ということを伝えるのさえ、寝ている顔の絵文字を3つ送っただけである。
最後は猫が土下座しているメールで終わっている。
とにかくこれで再び寝る準備に入る事ができたのだ。
すぐに眠りの扉に向かって走り出す。
メール中もそうだったが、二度寝昼寝などのいけない眠りの場合、速やかに目的に向かう事ができるのから不思議だ。
しかし一連のメール悲劇のせいでエルも落ち着きをなくし、脇に挟まったまま猛烈な毛づくろいを始めていた。
まるでスイッチでも入ったみたいに「そうれっ、そうれっ」という具合にせっせせっせと体中を舐めている。
う~、こういうのは寝入りばなには響くものである。
眠りの扉の手前で中に飛び込めずにモジモジしていたら、突然エルは私の脇から抜けて走り出し、「アオ~~ン、アオ~~~ン」と吠え出した。
発情期特有の遠吠えである。
うううううるさい・・・・・。
しばらく我慢していたら、今度は私のお腹の上を横切った。
私は目を閉じていたのだ。
突然腹の上を通り抜けられ、たまげて目を開ける。
もうこれ以上ウロウロされたり鳴かれたりしたら、眠りに集中できない。
せっかく扉が開いてるのに、そうはいくか。
私は小さなエルをフン捕まえて、クルッと丸めて脇の下に押し込んだ。
抵抗するだろうと思っていたのが、そのまま大人しくなった。
よし、扉よ、今行く。
私は今度こそとそちらに向かったが、果たして扉は閉まっていた。
すっかり目が覚めてしまったのである。
時間を見るとあと少しでアラームが鳴りそうである。
観念して起きる事にしたが、今度はエルである。
丸めて挟んだだけでグッスリ寝ている。羨ましい。
スヤスヤと寝息が聞こえそうなぐらいに、ぐっすり寝ている。
あどけない寝顔。
これを起こすなんて鬼である。当然エルの鬼になんてなりたくない。
こんな時は他の誰かに鬼になってもらうのだが、あいにく部屋にいるのは猫と自分だけだ。
なので私は携帯に入っている音楽を流してみる事にした。
猫達は携帯の着うたに敏感で、寝ていても驚いてすぐに目を覚ますのだ。
データフォルダを開いても、タイトルが入ってないので曲名が分からない。
私は携帯を全く使いこなせていないので、音楽は娘ぶー子が気まぐれにくれたものがあるのみで、しかもそれももらいっぱなしで放置であった。
それらの中から適当に選んで決定すると、流れ出したのは「サラリーマンNEO」の曲であった。
突然の音に驚いてエルは体を起こした。
思う壺だが、こんな曲でたたき起こしてしまい、かわいそうである。
こうして結局眠れなかったのだ。
次ぎに眠りの扉が開くのはいつのことだろう。