信じられないことに、あれから毎日練習しているのだ。
時間をあけると、せっかく掴みかけたものが戻ってしまいそうで怖いのである。そして弾き始めると、もう少しで掴めるんじゃないかとやめられなくなる。
ほとんど単音だ。簡単そうに聞こえたんだが、実際には速弾きの類で私には高いハードルであった。
いや、まだ何も始まっていないじゃないか。やれるところまでやってみよう。
最初はただただ、繰り返し弾いた。
指がもつれる。音の粒が揃わない。スピードをコントロールできない。
筋力だ。
力を抜くにしろ入れるにしろ、コントロールするためには筋力が必要である。
まずは、弾けなくても弾く。筋力がついてくれば、コントロールもできるようになるのではないか。
次に、運指。
何度も弾くうちに、どうしても弾きにくい箇所というのが浮き彫りになってくる。
弾き方を変える。
何なら左手も使う。
慣れるまではまた、繰り返しだ。
おとといよりは昨日、昨日よりは今日、と、少しずつだか確実に進歩している。だから続けられるのだが、それでもまだゴールは遠い。
そんな時、私はあるサイトの記事を偶然読んだのだ。
ゲームのレビューを書いている人のサイトである。
彼はいわゆるゲーマーなのだろうが、趣味でやっているというよりも、探求心からプレイしているようなプレイヤーである。幅広いジャンルをプレイし、冷静に細部まで分析する。
故に、やると決めたらとことんやりつくす訳だが、私がそのとき読んだゲームは音ゲー、初音ミクのゲームであった。
ザックリ言うと、指示された通りのボタンを曲に合わせて押していくだけなのだが、当然難易度はどんどん上がっていき、最終的にはとんでもないことになる。
目にも止まらず速さでのボタン連打、正確な細かいボタン選択。記憶、反射神経、筋力、それらを駆使してクリアがある。
それまでには、何度も何度も何度も、失敗してやり直すことになるのだろう。
サイト主も、特別音ゲーに特化したゲーマーではなかったようで、苦労していた。
その苦労を、一部抜粋する。
……やれるかこんなもん!! アホみたいな数のアイコンがアホみたいな速さで流れ続ける狂った譜面に俺の嘆きが響く。
本当にめっちゃくちゃ多い。俺は基本右手の4つボタンのみでプレーしてたが、それだと手が攣りそうに痛くなるほどだ。
だから左手の十字キーと分散させるべきなのだが、これが幾らやっても慣れない。頭と手が繋がっていないような感覚だ。
それに加え同時押しもガンガン混ざるから、頭の混乱具合も相当なものだ。考えてる暇はなく、反射で裁かにゃならん。
もちろんすぐにクリアー出来るとは思ってないんで、ひたすらにプレーと失敗を重ね、曲への習熟を目論んだ。……が、出来ん。
音ゲーの常として、苦戦する箇所は大体決まっているのだが、そこを集中的に練習することが出来ない。故に一向に慣れない。
「切り取り練習」機能があってもいいと思うんだが……用意してくれんのう。ミクさんは神だが、俺を見てくれるわけじゃない。
仕方ないからYou Tubeにあるクリア動画(信じられんことにパーフェクトだった、化け物)で難所のエアプレー練習をした。
それでも成果は上がらず、何度も何度もミクさんに「次がありますよ……」とか言われ、時間だけが過ぎていく。ああああ!!
しかし彼は、クリアするのだ。
努力の先に、成功があったのである。
必ずしも成功は努力の先にあるとは限らないが、この類の努力には成功がついてくるようである。
・・・音ゲーも単音のキーボードのフレーズも、そう変わらないじゃないか。
これはできる。
成功する種類の難関ではないか。
時に私も、ゲームに関してだけは非常にしぶとく、何度も不可能と思われた局面を乗り越えている。
これはゲームなのだ。音楽界のザイテングラートを、入手してみせる。
そろそろ撮影アングルを考えるかなEE:AEACD