行く前からそれがどんなステージになるのかは、だいたい想像がついていた。
一度、行きつけの「P」でセッション的に軽く演っているのを見たことがある。
だからこそ、平日にも関わらず、わざわざ行ったのだ。「応援」に。
心配だった・・・・・。
ジャンルはパンクだ。
ベースとギターボーカルの2ピースで、過激で即興的なハードコアだ。
綺麗に言った。
ハッキリ言えば、ムチャクチャだ(笑)
セッションでは、あいつのアレが始まった、という感じで、みんな面白がって見ていた。
それが新宿でライブである。友人としては、心配にもなる。
責任を持って盛り上げなくては、そんな気持ちで赴いたのだ。
果たしてライブは、前にお店で見たもの、そのまんまであった。
彼はギターを弾いていない。闇雲に鳴らしているだけだ。
そしてただ、叫ぶ。
メロディもない。
言葉のシャワー、というか豪雨だ。怒涛のように叫び続ける。
全てが即興の、その場限りの曲だ。
ベーシストがボーカルを見ながら、それに乗せていく。
一見だだ流しのように見える曲にもちゃんと起伏があり、恐らく「サビ」にあたるものがある。
そんなところはベースはスラップになったり、ギターもより一層激しくなったりする。
「スタジオで練習する」というような話を聞いて、あれに練習が必要があるのかと思ったものだが、なるほど、即興とは言え無責任なだだ流しではない。
金髪をグシャグシャに膨らませ目を剥いて叫んでいる彼は、本当はとても腰が低く、純粋で、優しい人である。
そんな彼が、鬱憤を晴らすように、淀みなく叫び続けている。
優しさの分だけ、耐えていたのだろう。
不器用な分だけ、悩んでいたんだろう。
6本の弦を張ったギターにはコードも音階もない、つまり極めて限られた技術で、彼は想いを表現する。
歪んだ不協和音ひとつを、打楽器のようにかき鳴らすだけが、彼の奏法である。
「ラブ&ピースなんかクソくらえ!!」
いかにもパンクらしいセンテンスに、虚勢は見えない。私は本当の心の叫びを感じた。
切なくて、涙が出た。
短いステージだった。それは唐突に終わった。
そしてそのあと私達の前に現れた彼は、「ありがとうございました、ありがとうございました」と言いながらボロボロ泣き出した。
帰り道、ダンナと、「彼の伝えたいことを上手くくみ取って、あの曲をもうちょっと曲らしく仕上げたらどうか」という話をした。
しかしそれがどんなにいい曲になったとしても、彼にそういった仕組まれた「計算」は似合わないね、という結論になった。
あれでいいのだ。
アドリブで勝負の「アードリブズ」。
彼らにしかできないものだ。
これからも頑張って。