バラバラの家族だった。
一見普通の家族の体を保ってはいたが、思いやりと言うものが極端に欠落した家族だったと思う。
父がご馳走をふるまい、母と夜中まで話し込み、家族でテレビでロードショーを見て、外枠は普通の家庭と変わっているところなど、さほどなかっただろう。
実際そこにいた時は、「足りないもの」には気づいていなかった。
漠然とした不満と渇望、そんなものを抱えながら過ごしたのが、実家であった。
それがそこを離れ、大人になり、実家を客観的に見られるようになってきた時、私に恨みつらみのような感情が蓄積されていくようになった。
衝突は何度もあったが、ある時をきっかけに私は父と絶縁した。
母との交流は続いたが、私の中では母に対してもしこりが残っていた。
それでも実家を離れて「家族」から「個対個」になったことにより、関係は次の段階に入ったのだと考えるようにした。
母ももう私を「教育」することはせず、ひとりの人間として扱い、自然とそこにはこれまでなかった思いやりが生まれるようにもなっていた。
詳しい事情は書かないが、色々あり、私は母とも距離をおくことにした。自然と兄とも接点がなくなった。
父と母とが円満に暮らすには、私が不要だったのだ。
私が過去を水に流せばまた別の形が作れたと思うが、どうしても私にはそれができなかった。
もう一生会えなくてもいいと思った。
辛くも悲しくもなかった。
そもそもそんな家族だったのである。
母は今、こんこんと眠っている。
最期の時を、見守ることしかできなくなってしまった。
そこには父と、兄と、私がいる。
驚くような団結力であった。
やっと、本当の家族になれた気がする。
「母を失う」という共通の試練を前に、みんなが自分よりも家族を思いやっていることが分かる。だから私も頑張れる。
辛いけど、乗り越えられる。
父が、兄がいてくれて良かった。
ありがとう。