人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

秋、3つの別れ

クラウザー3世は死んだ。(まだクリーナーの中。)

このところ、色んなものが私に別れを告げていく。

秋だ。

残された私はしんみりと彼らを見送る。

母からもらった二つの月下美人だが、それぞれ1輪ずつ大きな花を咲かせ、来年へと長い眠りに入っていった。

・・・と思ったらある日、またつぼみを見つけたのである。

10月の上旬だ。

「運が良ければ秋にもう一度咲く」という話はあったが、まさかこの6つのつぼみが全部咲くんじゃ・・・。

「ああ、つぼみね。たくさんついても、寒くなると落ちちゃうのよ。全部は無理よ。」

母はあっけらかんと言った。

そもそも1つを見るのも大変だったのだ。

欲張らずに、秋にまた見れるだけでも良しとしよう。

気温と関係あるのか、つぼみは非常にゆっくり膨らんでいった。

そもそも水はあまりやらなくていい、寒くなったらさらにやらなくていい、と言うのでハッキリ言ってかなり手を抜いていたが、ちゃんとゆっくりつぼみは成長していったのである。

ついにつぼみは、6つ揃って同じ日に頭をもたげた。

ひとりの落伍者も出さずにここまできたか。手を抜いたのに良く頑張ってくれた。

月下美人の大輪が6つ同時に咲くなんて、これは滅多に見れないんじゃないか。

しかし、咲くのはいつか。

ここまで来るのにひと月近くかかっているのである。まだもうちょっとかかりそうな気がする。

しかしチャンスは一晩だ。逃したら後がない。

予想通り、頭が持ち上がってからも時間をかけてつぼみはゆっくり膨らんでいた。

今日か?まだか?

鉢はかなり大きくて重いので、できれば無駄な労力は使いたくない。

ある朝見たら、つぼみは全部グッタリと垂れ下がっていた。

誰の目にも触れずこの寒い中ひっそりと、しかし華やかに、6つの花を咲かせていたのだろう。

GOD、咲いた日はたまたまダンナが早く帰ってきた日で、一緒に鑑賞できる数少ないチャンスであった。

しかし正直に言うと、花は見たかったが鉢を運ぶのが面倒であった。

だからつぼみが膨らんできても、「あら、もうすぐね。」の裏に「こりゃ面倒な事になった」という気持ちがあったのは否めない。

花は見たかったのだが、面倒な気持ちの方が勝ってしまったのである。

クラウザー3世の死と共鳴し、嫌なものが私の胸に残された。

今、このパソコンデスクの上には2つの携帯が載っている。

1つは今使っている新しいメタリックピンクのもの、1つはその前に使っていた白いもの。

ピンクの方は大抵、こうしてパソコンに向かう間はこのデスクで充電している。

白いのは単純に置きっ放しになっているだけだ。

白い方はもうどこかにしまってもいいのだろうが、1ヶ月前までは使っていたものである、なにか必要な情報がまだ入っていそうで、何となくそばに置いているのだが、もうその必要もなさそうである。

しかしこれもクラウザー3世の亡骸同様、異質なものでもいつも定位置にあれば慣れるのだ。

そこに馴染んでしまい、何とも思わなくなっていた。

それが昨日、突然ブルブルと震えたのでぶったまげた。

もう使ってない携帯である、ここにはメールも電話も来ないはずだ。

2回ほどブルブルを繰り返すと静かになったので、恐る恐るそれに手を伸ばしてみる。

詳しい文面は忘れたが、要は「もうすぐ充電が切れますよ」というお知らせであった。

なるほど、使っていないといっても幾ばくかの力が流れ出ていたのだろう、auの臨終宣告だ。

やがてもう一度ブルルと振動し、開いてみると画面は完全に真っ暗になっていた。

こうしてクラウザー3世と月下美人、白い携帯の3つと別れを告げたのである。

どれも小さな別れだったが、どれも小さな悲しみを伴った。

冬が来る。