千川は、秋津から乗り換えナシで行かれたのであった。
兄夫婦の家にお邪魔してきたのだ。
半年振りぐらいだろうか、会うのは。
家に行くのは初めてである。
「あの家は地震で屋根が崩れかかっているので注意。」
駅まで迎えに来た兄が、ガイドのように指差して見せる。
このあたりは我が家のある東村山よりも揺れたようで、兄の家ではテレビが倒れて壊れたそうだ。
それがトラウマになって、今ではテレビを寝かしてる(笑)
見る時にいちいち起こすらしい。
お嫁さんのマリちゃんは、ほんっとうにイカす女性である。
綺麗に準備されたテーブルには、高級レストランで出てくるような食べ物が次々と現れる。
フレンチのように一皿ずつ出しては話に加わり、次の皿を出したら汚れた皿をすぐに洗う。
なので常にキッチンもテーブルも綺麗なのである。
私は自分が今まで「ホームパーティ」と呼んでいた集いを恥じた。
毎度時間に間に合わない程下品なつまみを作り、一度に出すのでテーブルに乗りきらない。
皿など洗わないので、二日酔いだというのに翌日地獄を見る。
相撲部屋のちゃんこの方が、よっぽど上品である。
壁を埋め尽くすような数のレコード。
音が良いのでいまだに買って集めているらしいが、プレイヤーのフタを開けたままにしてレコードをかける。
やがてA面が終わると振り向いて裏返す。
煩わしいアナログ作業が今となっては懐かしい。
便利さを追求する我が家ではなくしてしまった、どこか暖かい作業。
普段はあまり量を飲まないビールも、話しながらだとたくさん飲めるから不思議だ。
モエ・エ・シャンドンで乾杯したらビールをたっぷり飲み、ワインを数本空け、訳のわからないレモンの酒を飲み、みんなゴキゲンだ。
同じ血の流れている兄に私は「酔っ払い武勇伝」を聞かせるように頼んだのが、「そんなにひどい事には滅多にならない。」と言うのでシラけた。
やっとつまらなそうに言った事は「江古田から全裸で帰ったときかな」であったが、充分である。
猛烈にタバコが吸いたくなったが、買いに行くにはコンビニまで行かなくてはならない。
「葉巻ならある」というのでベランダで兄と葉巻をふかす。
遠くに池袋や新宿の夜景が見えた。
背後に母とダンナとマリちゃんが楽しげに話をしている気配。
いや~、家族っていいね。
早くに家を出てバラバラの家族だったが、時が経てばまたこうして集まるようになるのか。
しかし父はいない。
私とは絶縁中、母とはケンカ中だ(笑)
父からの贈り物だという「塩」だけが、卓上にあった。
「もう11時」と聞いて、ぶったまげた。
楽しい時間は早いと言うが、あっという間であった。
今度はうちにおいでね、と言ったはいいが、あんな部屋に、あんな料理を出す訳にはいかない。
12月と考えているが、決して長い猶予ではない(笑)