人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

マエストロ

枕、毛布、パジャマ。

フライパン、皿、フライ返し。

ジェンガ、かるた、トランプ。

ミニキーボード、ギター、オタマトーン。

大きなボストンバッグを車に積んで、私達は高台の中腹にある彼の家へと向かった。

陽はもう傾いていて、夕陽が富士山をクッキリと浮かび上がらせていた。その富士山の方向へと、車は向かう。

約1年ぶりに会った彼は、ポケットに両手を突っ込んで背中を丸め「ギュッとしてぇ、ギュッとしてぇん。」とダンナに体当たりをした。彼らしい謎のアクションに先手を取られたどシラフの私達は、中途半端な笑いで戸惑う。「なんでシラフなの~、何かおかしい!」と笑いながら、彼は待ち合わせのスーパーの中へと入って行った。

ピアノの指導をしてもらうために、彼の家に行くことになったのだ。

正確には「ペダルの使い方を教えてもらう」、言葉で説明するとややこしいんで、ということだ。ついでに、今練習している曲もみてもらうことのしたのである。

で、ペダルについては「できとるやん。」で終わってしまった(笑)その代わりに、さらなる上のテクニックを教えてもらったのだ。ハーフペダル。また、ペダルをリズム楽器として使う方法など。

練習中の曲については、練習になったことはもちろんだが、やっぱりプロは違うなぁと関心した。

兄が指摘したのと同じ部分で同じようなことを言われ、また兄とは違うアプローチで新しいやり方を学ぶ。

彼はクラシックなので、表現に重きを置く。グッと表情が広がった気がする。弾ければの話だが(笑)

彼の家には現在、謎めいた同居人がひとり。そして私の練習中にまたひとり、元教え子という子がやってきたのだ。

教え子の練習が終わったらみんなで飲み、私とダンナは先に酔い潰れてしまった。

夜中に一度目が覚めると、彼は同居人と教え子とマージャンをしていた(笑)

朝になって目が覚めると同居人はもういなくなっていて、彼は教え子とYouTube動画をテレビで見ていたのだ。

それは昭和のアイドル特集で、彼は「可愛奈保子と中森明菜が可愛い」、元教え子は松本伊代を見て「髪型すごいっすね」などと品定めをしていた。

テーブルはすでに綺麗に片付いており、私が使ったフライパンや皿も綺麗に洗って片付けてあったのだ。

凄いな。

2日以上滞在したら、私など追い出されてしまいそうである。

「来てくれて本当にありがとう。嬉しかったよ。」

本音かどうかは分からないけど、そう言われるとこちらも嬉しくなる。

今度はもっとたくさん色んなものを作るから、また呼んでください。

家に帰ったら、鍋の中身が腐って悪臭を放っていた。

彼をうちには呼べないな。

まるで山の中の別荘のような家の中から、

見える夜景。

彼の商売道具で勝手に遊ぶダンナ。