人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

終焉

もう怖くはない。

私は実に数週間ぶりに、酒を飲まずに寝ることができた。

早めに布団に入り、雑誌を読む。

それでも余力があったので、猫の本を追加。

とっぷりと眠くなり、いつものように電気をつけたまま、目を閉じた。

バケちゃん問題が解決したら不眠問題のほうが再燃しそうで不安だったが、やはり夜中に目が覚めた。

「覚めるのが基本。」「基本、覚めるのだ。」そう言い聞かせて、また夢の世界に戻ろうとしてみる。

部屋の中では相変わらずピキパキと色んな音が鳴っていたが、全く怖くはなかった。

ずっと以前からこうだったのだ。

何も変わりはしない。

「基本、こうなのだ」。

そころが私は異変に気付いた。

無意識のうちにエルを探していたが、いつもなら枕元か足元で寝ているはずである。

バケちゃん騒動以来、夜中に目覚めるとエルの存在を確認するようになっていたが、今回は無意識であった。

なので眠りの妨げにはならないはずだったのだが、いないのである。

それはハッキリと意識に認識された。

怖い訳ではない。

あれ?おかしいな、ぐらいのスタンスである。

私は寝たまま目を開き、部屋中を見渡してみた。

少なくともベッドから上の視界には見当たらない。

目を覚まさないように極力動かないでいたのだが、これはおかしい、と体を起こす。

暑いと床の上で寝ていることがあるが、室内はクーラーがバッチリ効いて、うすら寒いぐらいであった。

そしてやはり、床にもいなかった。

次にはカーテンをひとつずつめくって、窓辺を・・・・・、確かめようとしたのだが、ああやっぱり私はヘタレである。

窓に何かが映っていそうでできなかった。

その分は手探りである。

いない。

これは本格的におかしい。

「エル?」

私は呼びかけてみた。

返事はない。

そもそも呼ばれて返事をするような仔ではないが、何度も呼ぶとひょっこり現れる事があるのだ。

「エル!!」

「エル!!(泣)」

呼びかける声は叫びに近くなっていったが、部屋は静まり返ったままである。

娘ぶー子は泊まりでいない。

じゃあダンナが連れて行ったのか?

何のために?

だいたい一度寝たダンナが起きてくる事すら考えられないし、仮にそうだったとしても、この部屋に来れば私が気付くはずである。

何だかんだ言ってもどこかでビビッているのだから。

だからこうした異変に敏感なのである。

しかし私がビビりつつ寝ていることは、重々承知しているはずである。

ダンナは来ていない。

ならばエルはこの部屋のどこかにいるはずだ。

私はベッドから出て、部屋中をくまなく見て回った。

いない。

エル。

もしかしてバケちゃんが連れて行って・・・。

「まさか」という場所がある。

普通に考えればあり得ない場所だ。なので完全にスルーしていたのだが、一応、念のために、そこを見てみた。

いない前提である。

しかし、いるのであるEE:AEB64

これは猫用のソフトハウス(そんな名前はない。ぬいぐるみのような素材でできた柔らかい猫用の家である。命名ed by ぽ子)なのだが、あまり愛されてないので、見ての通りベッドと家具の隙間を埋めるクッションに成り果てていた。

途端に愛され良く乗っかられたのだろう、屋根がへこんでいる。

引っ張り出すとやっと出入り口が現れるのだ。

これは猫が入れるような配置ではない。

ところがエルはここで寝ていたのだ。

という事は、出入り口の場所をちゃんと知っており、無理矢理頭を突っ込んで入ったのだろうと思われる。

十中八九が枕元か足元、残りの一、二は暑い日に床の上で寝ているエルが、バケちゃん騒動の去った後にこんな暴挙に出るなんて。

すっかり目が覚めた。

私は一度引っ張り上げたネコハウスを再び押し込み、出入り口を塞いだ。

入れたのだ、出れるだろう。

「何かがいるからあそこに逃げたのか?」などと考えたのはほんの一瞬で、私は静かな気持ちで目を閉じた。

新聞屋の音が聞こえる。夜明けは近いだろう。

私はその明かりを見ることなく、眠りに落ちた。

卒業だ。

全クリ。

脱出した。

完全に乗り越えたのである。

もう怖くはない。

でもバケちゃん話はもう二度と聞かないことにする。