ネタなんてなくていいのだ。
「何事もない」、こんな幸福をないがしろにしてはいけない。
窓が開いていた。
ダンナが帰ってきて、カーテンを閉めようと思って気づいたのである。
瞬間、ゾクッとした。
慌てて部屋を見渡す。
1、2・・・。
2匹しかいない。
4匹いるはずの我が家の猫が、2匹しかいないのである。
脱走したのはエルとミであった。
利口なのか臆病なのか、大五郎はのんびり窓辺にいたくせに、出なかった。ラは気づきもせず、キャットタワーのてっぺんで寝ていた。
いつから開いてたんだ?
風呂に入る時には閉めたから、その後、風呂から出た時だろう。ゆうに3時間は経っていた。
ダンナと家を飛び出して探し回ったが、見つからなかった。
この時点で私は捜索を諦めた。
戻ってくるはずである。
猫の脱走は初めてではない。
1回目はミが、これは夜遅くに玄関まで来たところを娘ぶー子が捕まえた。
2回目は気づいたのが早かったので、隣家の駐車場にいたところをご近所さんにも協力いただいて、無事捕獲した。
この2回で学んだことは、①家猫は戻ってくる可能性が高い、②追うと逃げる、ということである。
出て行った場所で待っている方が、出会える可能性が高いと踏んだのである。
そこで庭に面した窓の下に、ご飯と小さなダンボールを置いて待った。
ダンナは明かりを持って、何度も探しに行ってくれている。
「もうダメだ」という気持ちと、「戻ってくる」という気持ちが錯綜する。
座り込んで庭を見ていると、正面から「グエー」という汚い鳴き声がした。
この声は・・・、エルであるEE:AE4E6
見ると、隣との境のフェンスの向こう側に張り付いていた。
「エル!エル!」と呼ぶと、答えるようにグエーと鳴きながら、入り口を探すように右往左往する。
フェンスの隙間は狭く、そこからこっちに入るのは無理そうだ。ダンナを呼んで、隣家側に回ってもらう。
やがてダンナがエルを呼ぶ声がしたと思ったら、エルは一目散にそっちに向かっていった。
私もそっちに向かうと、ダンナがエルを抱いて戻るところであった。
簡単に捕まって良かった。
エルはほんの赤ちゃんの頃に長い間入院し、特殊な環境で育った子だ。
その上、私たちが溺愛して非常に甘やかしたので、独りになることを物凄く嫌う。
おちおち洗濯物も干せないので、いちいちキャリーに入れてつれて歩いているぐらいなのである。
それが幸いしたのだろう。
ヒーロー役をダンナに持っていかれたの悔しいが、私の落ち度でこんな事になったのだ、見つかったことに感謝する。
しかし、ミはそうもいかないはずだ。「追えば逃げる」を学習したのは、このミとラの姉妹の脱走であった。
私は保護団体から捕獲器を借りることや、貼り紙、保健所や最悪清掃局にも連絡することまで考えていた。
実家で戻らなくなった「チビ」のことを思い出す。長い間、胸に棘が刺さったような日々を送ったこと。
私は徹夜でこの窓から庭を見張る覚悟をした。
そんな時、娘ぶー子が帰って来たのだった。