現在の家に越して来る前の話だから、5、6年ほど前だろうか。
ダンナの両親が転勤で家を離れている間、その家に住んでいた。
大きいが、もう古い作りの家であった。
当時も毎晩のように飲んでいたが、その晩私はリビングのイスで晩酌の最中に寝てしまった。
珍しい事である。
気がつくと一緒に飲んでいたはずのダンナがいない。
すぐ戻るかと気にかけずにいたら、上の寝室からガタン、ガタンと物音がした。
恐らくダンナである。
私が寝ている間に一体何をしているのだろうか。
気にはなったが、もし「見てはいけない場面」など見てしまったら、後悔する事になるだろう。
そのうち戻ってくるだろうから、その時に聞けばいい。
私は待った。
待ったがダンナはいつまで経っても戻って来ない。
相変らずガタンドスンと寝室からはおかしな音がしていた。
意を決して寝室に行ってみる事にした。
私はある程度の時間の猶予は与えたのだ。
何をしていたのかは知らないが、その間にコトを済ませられなかったダンナも悪い。
寝室のドアを開けると、そこには異様な光景が繰り広げられていた。
ダンナは、家具などにかます耐震つっぱりポールを床に立て、自分は膝をついてグーンとその手を伸ばしていた。
耐震ポールはT時になっていて、ちょうどTの字が逆さになるような形であった。
まるでミケランジェロあたりが作った像のようなポーズであった。
「は、はは・・・。」
変な格好を見られてダンナは照れて笑ったが、「起こしちゃったか。その前に何とかしたかったんだけど。」と言った。
なんと、ダンナの持っている耐震ポールの下には、長いムカデがいると言うのだ。
ダンナはとりあえず耐震ポールを押し付けてムカデを捕らえたのはいいが、その手を離すことができず、次の行動に移れずに困っていたようだ。
殺虫剤を取って来るように言われ、私はそれを持って来てダンナに手渡した。
「見ないほうがいい」と言われたが、そう言われれば好奇心の方が勝ってしまう。
耐震ポールをゆっくり持ち上げると、その下には20センチほどの大きなムカデがうごめいていた。
ぞぞ~~。見なければ良かった。
ダンナはそいつに向けて殺虫剤をシューッと吹きかけたが、まるで効果はなく相変らずムジムジとうごめいている。
どうしよう、どうしよう、と二人で途方に暮れていたが、いい案を思いついた。
本当にその時はいい案だと思ったのだ、私もダンナも。
まるで頭からマンガのフキダシが飛び出して電球が光るが如く。
「早く、早く」
「誰にする?」
「ラだ、ラ!」
選ばれたのは大きい方のラであった。
私達は大真面目に猫にすがったのである。
ラをムカデの方に放ると、私達はビビッてすぐに下がる。
しかしラもムカデのあまりの大きさにビビり、ピョーンと飛んで退いた。
結局チリトリですくってトイレに流したが、大の大人が猫にムカデを託してビビッていた姿は滑稽であった。
何でこんな事を思い出したのかというと、昨日、カメムシが部屋に入り込んだからである。
ダンナも娘ぶー子もおらず、やはりビビッた私は猫にすがったのだった。
小さいので結局、つつかれているうちにどこかに入り込んでしまったようだが、ふとパジャマの裾を見るとそこにくっついていたので超ぶったまげた。
キャーだのヒーだの言って暴れまわってはたき落としたが、相手は1センチほどのカメムシである。
情けなし。
いくつになっても虫は苦手である。