和室と言えば、ふすまである。
和の繊細さというところか、ふすまと言うものはすぐに破れてしまうものだ。
ほんのりと光を通す、その美しさ。
しかし、丈夫さは併せ持っていない。
やがて破れて貧乏臭くなるばかりである。
それでもその部屋を使うのが大人であれば、それなりに気をつけるのでそうひどい事にはならないのだが、問題は、子供やペットがいる場合である。
彼らはおよそ繊細さとは程遠いところにいる。
プスリという感触、それを大胆に楽しむのだ。
前に住んでいた家では、ラとミの姉妹がふすまに頭から突っ込んでダイブするようになってしまい、ダンナがアクリル板を貼ってしまった。
みんな寝静まった深夜になると、ボスッという音が隣の部屋から聞こえてくるのだ。
と同時にダンナが弾かれたように「ゴルアーー!!」と飛び起きる。
あ、あんた、起きてたんかい。
猫よりもダンナにビックリ。
今の家に越してきてからは、猫は和室に入れないようにしていた。
「猫」は。
ところで、エルは猫ではない。
娘なので、現在はダンナの寝室となった和室に自由に出入りしているのだが、案外そうひどい状態にはならなかった。
ふすまがプスリといって穴が開く事を、まだ知らないのである。
むしろマーキングで黄色いしみを作ってしまったので、最近「丈夫なふすま」というのに張り替えたばかりである。
しかし和室には、もう1ヶ所ふすまがあるのだ。
少し高い位置にある窓についているが、気がついたら一部分が酷く破れていた。
「ふすまが破かれてるんだよー。」
ダンナが憤慨して言う。そりゃアナタの愛娘の仕業でしょうに。
「いや、あの場所はラも時々上ってるんだよ。」
時々・・・ね。
なんでトドみたいに鈍くて大人しいラより先に、やんちゃな暴れん坊のエルを疑わないのだろう?
イカレている。
ダンナは完全にエルにイカレているのだ。
私も同じ穴のムジナだと思っていたが、この頃少しずつ距離を感じるようになってきたぽ子である。
仕事から帰ると、和室に電気がついていた。
ダンナが帰るにはまだ早い時間だ。
娘ぶー子である。
彼女もトド並に鈍いのだが、時々自室に上がるのも面倒がってこの和室の万年床で寝てしまうのだ。
「おがえり・・・」
眠そうに目をこすりながらぶー子は起きてきた。
「ふすま・・・エルに破かれた。」
知ってる。ダンナはラだと言ってるけど。
「違う、今。寝てたらそこでビリビリって、こうやって。」
彼女は両手の爪を立てるような形で、互い違いに上下させた。
「ヒラヒラ~~ッて白いのが落ちてきたよ。面白いのかねぇ。」
現行犯である。
しかも過失ではない、故意だ。
破れたのではない、破いたのだ。
私はダンナが帰ると、さっそく告げ口した。
怒るか?怒れ。怒れ怒れ~~~!!
しかしダンナは「ふーん」とつまらなそうに言っただけであった。
それよりも、鳴きっぱなしのエルが心配で仕方がないようで、「体が熱い」「病気じゃなければいいけど」と散々気をもんで、一緒に布団に入って寝てしまった。
ここは試しに私がひとつ、ふすまをブチ破いてみるか。
怒らせない自信はある。
しかしその理由は、エルとは違うのである。