いつもなら午後からの出勤だが、今日は朝からである。
バタバタと忙しかったが、ぽ子の心はウキウキしていた。
もしかしたら。
今日は午後から監査が入ると言っていた。
その時間はその会社以外の仕事ができなくなるらしく、仕事の量が著しく減ってしまう・・・と上司アンガが悩んでいた。
「仕事は先に進めたいのに、こんな量を全員でやったら、あっと言う間に終わっちゃいますよ・・・。」
ほ~、それは。
こんなに人数いらないってことですよね。
「それならみんなにバカンスをプレゼントしたらどうですか??」
冗談半分に言ってみたのだが、「それも考えてるんですが、全員帰すわけにもいかないし・・・。ぽ子さん、それなら明日は午前から来ますか?」
運が良ければ午後には帰れる。
やほ~~♪何しようかな。
ゲームと昼寝をしても、時間が余りそうだぞ。
・・・という訳で、足取りも軽く、会社に向かった朝なのであった。
さあ、いつ、誰が帰れるのか確定するか。
できるだけ仕事を進めておこう。
それだけ早く帰れる気がしてしまう。
「・・・で、お二方は午後、監査の連絡があったら帰ってもらっていいですか??」
果たして上司アンガが声を掛けたのは、私ではなかった。
しかしこんな、朝から出勤させたりして気を持たせるようなことだけするかね。
いや待てよ。
今アンガは「監査の連絡があったら」と言ったのだ。
「午後から」とは言ってない。
ぽ子だけ午後から帰れちゃったりして~~~♪♪
「だったら午後から休んでもいいんですけど。」
お二方のうちの一人が言った。
ちょっと待てよ、それを決めるのは上司アンガだぜ。
アンガは本気にしなかったのか返事をしなかった。
するともう一度、今度はもう少し大きな声で「午後、休んでもいいんですけど。」と繰り返した。
彼女は休みたいのだ。
しかしアンガは「仕事を進めたいのでそれはちょっと・・・。」と答えた。
フー、午後帰りは取られなかったぞ、良く死守した、上司アンガ太郎。
いやいやしかしだ。
アンガは私にも「帰っていい」とは言ってないな。
それどころかいいも悪いも言わず、黙っていれば午後も出勤の臭いだ。
私は恐ろしくてすぐに確かめられなかった。
午後出勤も恐ろしいが、この奥様をさしおいて私だけ帰るのはもっと恐ろしい。
昼休みになった。
「で、私は・・・午後は来たほうがいいってことですかね??」
私は恐る恐るアンガに聞いてみた。
奥様お二方はじっとこっちを見る。
「え?は??いいですよ、午後は。」
気配り少年アンガは遠回しに言ってくれたが、私には奥様の痛い視線が鋭く突き刺さった。
ふえ~~ん。
「・・・じゃあ・・・、あの・・・、休みたい人がいるみたいなので・・・、私はいいです・・・。」
「あら、別に予定がある訳じゃないからいいのに。」こえ~。
「いえ、私は家帰ってもやることないですから。」ある。ゲーム。
「え~・・。」
二人は見つめ合って、あなたは?と譲り合っている。
午後出勤なら急いで帰って急いで戻らなくては。
ロッカーで着替えて戻ると、もうふたりとも午後休みになっていた。
まぁ私など子供は大きな子ひとりだし、彼女達に比べて家での仕事の量が違うのだ。
きっとあの人たちはゲームなどしないだろう。
有意義に使って下さい、午後のプレゼントを。
監査が午後イチに入ると決まったとかで、「2時に来て下さい」とメールが来た。
2時・・・脱力。
何と中途半端な。
結局私はいつも以上に家事をやらなかった。
1時間増えた昼休みはパソコンで終わり、いつもより早く帰った分は、カレーの本を読んでうたた寝したら終わってしまったのだ。
「角煮ラーメンならいつでもごちそうしますよ。」
別にアンガが悪い訳ではないのだが、「ちくしょーめの巻」とメールを送ると、埋め合わせにと言う感じに返って来た。
まぁいっか。
私は食べ物に弱いのだ。
かくしていつも彼との間では、「じゃ角煮ね」という言葉が飛び交い、すでにもう何杯おごってもらう事になっているのか分からない状態である。