再放送のモンキーズにドハマりしていた頃だ、あれは1979年、80年ぐらいだろう。
デビューは1966年とのことなので、あのリバイバルは約14年後。私は小学6年生だった。
再放送のドラマを観て、ファンクラブに入り、レコードは片っ端から買った(なぜか安かった)。その時々で好きなメンバーは変わり、ミッキー以外の全員は愛した。
彼らは私の中でまだ当時のモンキーズそのままだったのだ。
しかし現実の彼らは、もう30歳は過ぎていた。
その35歳のデイビーが、来日することになったのである。
握手会だかサイン会だかがあるというので、私はモン友と参加することに。
詳しいことは忘れたが、何かを買うとその権利を得られるとかで(シングルレコードあたりじゃなかろうか)、私達は早めに会場へと向かった。休日のオフィス街。地下を見下ろしたような記憶があるので、地下がショッピングモールになっていたのだろう。
着いてみると、すでに長蛇の列ができていた。
それはもう、先頭がどこだか分からないような長い列だった。それでも帰るという選択肢はない。デイビーに会えるのである。会って、握手ができるのである。
「キャーーーー!!」という悲鳴のような歓声が上がり、殿堂の登場が伝わって来た。列を外れる訳に行かないので見に行かれないのがもどかしい。
長い時間をかけて、少しずつ前へと進んで行く。それにしても、長い時間だ。これはもしかしたら、自分たちの順番が来る前にタイムアップかもしれない。
ところが時間が来る前に、突然デイビーは帰ってしまったのだ。
何故だか分からない。気が付いたら前の方が大騒ぎになっていて、私ら後方は時間差でその事実を知る。
「え~!?」「なんでえ!?」
始めのうちは、口々に文句を言うだけだったのが、その声は徐々に大きくなっていった。みんな同じ思いなのだ。思いは増幅し合い、声も大きくなっていく。
もう列など必要なくなり、人は会場に殺到した。
「話が違う」「説明しろ」とファンらは詰め寄り、それを囲んで「ふざけんな!!」「説明しろ!!」と煽る後方。やがてそれはシュプレヒコールのようになり、まるでデモの如き様相となっていった。
裏切られたファンの怒りは大きく、やり場のない思いは暴走していく。
次にはビルへの落書きが始まった。関係者への文句が書き殴られる。
なんとか収拾をつけようと企画者が出て来て大きな声で説明を始めたが、「都合で予定よりも早く帰ることになった」と言うだけで、そうなると今度は「なんで先に言わない?」と新たな燃料になる。
ファンたちは、高揚していた。「話が違う」ということから、自分達にあたかも正義があるような気持ちに酔っていた。
収拾が付かず、しばらくすると今度はファンクラブの人らしき別の人物が現れる。
どう説明したかは覚えていない。予定外に早く帰ってしまったことに間違いはないのだからそれ以上の話はなかったと思うが、この人は「こんなことしてデイビーがどう思う?!」というような方向に持っていったんじゃないかと記憶している。
ファンに負けじと熱く訴えて来て、これでみんな大人しくなってしまい、最後には消しゴムで落書きを消し、散り散りに帰って行ったのだった。
集団心理と言うか、あのどんどんエスカレートしていく感じは、不思議な感じだった。
ファンが若い女性ばかりだったからこの程度だったが、もしこれが飢えた労働者であったり、原因がもっと切実なものだったりしたら、集団が暴徒化するもの頷ける。
当時小学生だった私も、こぶしを振り上げて怒りをぶちまけていた(笑)まこと恐ろしい図である。
この日のことがどこか記録に残っていないかと検索したが、見つけることができなかった。
平和な日本での、小さな衝突であった。