人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

忠犬ミツ公

良く飲んだ週末であった。

特別出掛けた訳でもなく、ダンナと飲み、そのダンナが寝てからがいちいち長かったのである。

記憶がないので何をしていたかは定かではない。

スピーカーが出ていたので昔のライブの音源など聴いていたか。

翌朝の支度ができる余力があった日は、メモを残すようにしている。冷蔵庫におかず、とか鍋にうどんの汁、とか。さらに余力があれば、著名人の似顔絵も添えている(笑)

ところがこの日のメモは、人格が崩壊したかと思われるような酷い有様で、文字も文章も支離滅裂であった。

メモは3枚にもわたっており、それは文章が長いからではなく、文字がやたらと大きく、意味の分からない絵のようなものが隙間なく描かれているからであった。

似顔絵は、納得いくものが描けなかったのか、鉛筆で書いたものはグシャグシャに塗りつぶされ、サインペンで乱暴に描いたものがセロテープで貼り付けてあった。

誰だよこれ。何となく思い出せるあたりがまた恥ずかしい。藤井フミヤである。

そして一枚には大きな文字で、「フタ」「失くし!」とある。はて、何をなくしたんだろうか。

しばらく思い出せなかったがそれは、サインペンのフタだった。そうだ、見つからなくて、ラップで包んだ記憶がある。

ところがテーブルの上のサインペンにはきちんと蓋がしてあり、聞けばダンナが見つけてくれたとのこと。

「ひどいよね。」メモのことだ。

「うん、ひどい。」ダンナが答える。

「相当酔ったね。」私のことだ。

「そのようだね。」そのようだ。

そんな酔夜のことである。

 

覚えていた訳ではなく、書き残してあったので思い出すことができたのだ。

ダンナはもう先に寝ていて、私は酒宴の片づけをしていた。

テーブルと流しの往復である。酔っていて苦痛は感じていないはずだ。たいがい音楽など聴きながら楽しくやっている。

そんな時に、床に置いてあった空のボトルを蹴っ飛ばしてしまったのだ。ガラン、と思いがけず大きな音が深夜のリビングに響く。

突然のことに私はとても驚いてしまい、ギャッというような悲鳴を上げてしまったのだ。

すると隣の部屋で寝ていたミッツが飛んできたのである。

こういった不意の物音は、基本的に苦手な子だ。お散歩でも物音には敏感で、良く飛び上がったりしている。

それなのに、本当に犬とは。

 

この子をこの家に迎えるにあたって、私はネットで情報を集め、犬について良く調べておいた。未知の領域だ。失敗したくなかった。

それによると、犬は自由奔放にさせてはいけない、しつけが必要とのことで、可愛がっても甘やかさないようにと気を付けて来たつもりだ。

我ながら少々厳しすぎるかと思うこともあるが、誰かがきちんと手綱を締めなくちゃならないのなら私は鬼でいい。結果、言うことは良く聞いてはくれるが、べったり甘えるのはもっぱらダンナの方であった。

なので私とミッツは、ドライな関係のはずだった。

 

「みっちゃん。」こんな時ばかり、みっちゃんなどと呼んでしまう。

「みっちゃん、いい子だね。」しゃがんで抱きしめると、口を開けて尻尾を振る。

分かりやすいヤツ。

可愛いヤツめ。

 

んん??

ところでどうしてミッツはここにいるんだ?夜はダンナの部屋で寝ているはずである。

ダンナはミッツを置いて行ったのか?

そしてこの後ミッツはどうなったのか?

 

先週も、飲み過ぎた週末であった。