一週間が経った。
だんだん「薬なんかで治りっこない」という気持ちになってきたのだ。
何年もかけて、声そのものをダメにしたのである。
薬で治るのなら、近所の病院でも治せたのではないか。
不安がよぎったが、医者はプロだ、そしてあそこは名医なのだ、私などが疑うのは筋違いである。
ところでそれとは別に、疑問もあった。
次の診察後はどうなるんだろう??私ぁ単純にそろそろ酒が本格的に飲みたい。
ステロイドの量は徐々に減らされているが、まだ続くのならまだしばらく飲めないということか??
あぁもう、酒が飲めないストレスでどうにかなってしまいそうだ。
もし次の診察日に酒が解禁になったら、絶対にその日に飲んでやる。
それにしてもこの治療、効果はあるのか?相変わらず私の声は嗄れている。
歌ってみた。
変化はない。
高い裏声を出してみる。
えっ、嘘っEE:AEB30
で、・・・・・・出た。
これまで決して出なかったような高いキーが、出たのである。
まだまだ歌に使えるような声ではないが、「音」としてはちゃんと出ている。
ちょっと、こんな声、もう忘れてたよEE:AE5B1
ホッ、ホッ、ホーーーーEE:AE5BEまだ上がる上がるEE:AEB30
なにこれーEE:AEB30
私は嬉しくて、ハッハホッホと裏声を出しまくり、小躍りした。
そもそも私の出せる音域は、全体的に低く狭くなっていた。
その中でも高いキーは嗄れ声になり、それより上は早い段階でまったく出ないという状態であった。
ところが今、嗄れ声はそのまま、出なかった部分が出るようになったのである。
この日私は合唱団の仲間と会う事になっており、ハッハホッホ言いながら自転車を漕いで駅に向かった。
声が出る。
こんなに高い声が、出るようになったよEE:AE473
もう発声練習でひとりだけ恥ずかしい思いをしないで済むかもしれない。
一オクターブ下で歌うようなオミソはなくなるかもしれない。
と嬉しい反面、ちょっとした疑問も芽生えてきた。
これ、薬やめたらどうなるんだろう?
これは「治り始めている」のか、それとも単に薬の効果で一時的に声が出ているだけなのだろうか。
その答えは、すぐに分かることになる。
合唱仲間の「こもりん」は、ご主人が某有名オペラ歌手、自身も本格的に声楽を勉強しつつここまで来られた立派な歌うたいだ。
彼女は私の通院を聞いてとても気にかけてくれていたのだ。
しかしステロイドを飲んでいることを告げると、「ああ・・・。」と声を落とした。
私の通い始めた病院は、「声を出させる」治療をするらしい。
根本的に治すのではなく、本番に支障がないよう、ステロイドを多用して無理に声を出させるらしいのである。
そういえば私も、「本番はいつですか?」と聞かれた。
ステロイドはとても強い薬で、大きな効果を出すが、その代償は大きく、またステロイドなしで歌えなくなるというリスクがあるという。
実際こもりんの知り合いにも、それで苦労した人がたくさんいるらしい。
つまり今の私の声は、いわゆる「ドーピング」だ。
私は「声を出したい」のではなくて、「治したい」のである、これでは行き先が違う。
となると、治療方針が合っていないということになる。
次回の診察で「根本的に治す治療」でないことが分かったら、病院を変わろうかと思う。
早く分かって良かった。
ただ、病院のために言っておくと、決して悪い病院であるということではない。
どうしてもやらなくてはならない本番が控えている、仕事で歌わなくてはならない、そういう差し迫った状況にいる人には、救い主になっていることだろう。
その人達が最終的にどうなるのか、私には知る由もないが。
私は、可能ならもう手術をしてしまいたい。
長い間放置したので、恐らくちょっとやそっとで治るレベルではないと思う。
一度きれいにリセットして、その状態を維持できるような感じにもっていけたら理想的なのだが。
さしあたって、次の診察日を待つ。
飲みたいよ~~EE:AE5B1