私は緊張して、顔を見ることができなかった。
いつかこんな日が来る、そんな予感はしていたが、的中したのだ。
「ぽ子を苦しめたくはないんだけど・・・。」
ダンナは真剣にそう言って言葉を詰まらせた。
そしてしばしの沈黙の後、吐き出すように続けた。
「もう限界だよ・・・。」
分かった、私は大丈夫、気にしないで、とできるだけ平静を装ったが、無理っぽい笑顔になってしまった事だろう。
引きつっているのが自分でも分かった。
しかし、もう観念するしかないのだ、限界だ、とまで言われてしまったのだから。
「弁当、頼みます・・・。」
との事でありますEE:AEB64
会社で食べている弁当がまずくて限界だ、というのだが、何を言う、私の弁当のほうがまずいに決まっている。自信がある。
私も仕出し弁当なら何度も食べた事があるが、どこの弁当も絶品である。
一体ダンナは、私の弁当にどんな夢を描いているのか?
私の弁当が美味しくない理由は、「ワンパターン」、「種類が少ない」、それに限る。
つまり弁当の中身を考える能力が、備わっていないのである。
ぶー子が高校の時までは仕方なく弁当を持たせてはいたが、残り物と冷凍品の賜物である。
倍は食べるであろうダンナには、対応できない。
「卵焼きだけあればいいから。」ダンナは泣きそうな顔で言う。
そりゃ卵焼きだけでいいなら作れるが、私にもプライドがある。
ああもう、弁当って何ですかEE:AEB64
それは美味しいものですかEE:AEB64
毎日弁当用の材料とレシピを送ってもらえれば、私は喜んで作る。
そこのところが、最大の難関なのである。
料理は嫌いではない。
食べる事が好きなのでむしろ楽しんで作っているが、私にはレシピに関する創造力というものが全く備わっていないので、毎回料理本を読んでじっくり時間をかけて、献立を決めている。
そのくせ「簡単にできる」「安い献立」などのタイトルはまずそうで信用できず、やたらと手の込んだものばかりを作る羽目になっている現状だ。
故に「ご飯を作る」となると、考えるところから出来上がるまで、とても時間がかかるのである。
弁当だって本を見れば作れるだろうが、これ以上の時間と労力を持っていかれるのは、正直厳しい。
だからしらばっくれていたのである、今日まで。
しかし「限界が来た」と言ったのだ、ダンナは。
げん‐かい【限界】
物事の、これ以上あるいはこれより外には出られないというぎりぎりの範囲、境。限り。Yahoo!辞書より
ギリギリ。
もうこれより外には出られない。
分かった、私は大丈夫、気にしないでEE:AEB64
まだ何もやってないじゃないか。
今度は私が限界まで頑張る番だ。
その時が来たら、また別の方法を考えればいい。
かぁ~~~っ!!
しかしプレッシャーだ。
私に成人男性向け弁当なんか作れるのか?
ところで私が初めて成人男性向けに作った弁当は、ご飯の上にアジの干物を丸ごと乗せただけのものだ。
二日酔いだったのだEE:AE4E6
二日酔いの確率で言えば今も大して変わらないのだ。
気合、入れにゃーのんEE:AEB61