「お父さん、かわいそう・・・。」
娘ぶー子は言うが、こんな時に私は神の不公平を感じる。
可哀想と言われたダンナは隣の部屋でイビキをかいて寝ていて、可哀想な目に合わせたと言われる私は休日にも関わらず大掃除をしていたのだ。
いよいよ九州が来る日は明日と迫った。
掃除をする最後のチャンスだが、案の定ラーメンを食べたら猛烈に眠くなった。
しかし酒を飲むなら早目に飲まないと明日に響いてしまう。
私はラーメン屋から帰るなり酒を飲み出し、酔った勢いで掃除をしてしまおうと考えた。
一方ダンナは珍しく「かったり~よ。」と言ってテレビの前のソファを陣取り、細々と読みかけの雑誌の整理をしていたが、やがて寝てしまった。
この逆は今まで何度もあったが、「後ろめたくない」というのは何とすがすがしいのだろうか。
私は勢いに任せて、残してあった掃除箇所をどんどん片付けていった。
しかし。
「お父さん、かわいそう。」である。
つまりダンナをほったらかしにしたのがよろしくなかったらしいのだが、ダンナは家に着くと「よし!ガンダム無双やるかな!!」とか、「おいしいよ!」とスナック菓子を出してきたりしたあたりが涙を誘ったらしいのだ。
見方を変えれば皆が忙しく掃除をしている時に何を言ってるんだ、ともなりかねないこのセリフだが、そこはダンナのキャラというか、普段から大人しく控えめなために、こんな場合はそれに取り合わなかった私が悪者になるのだ。
私はぶー子に散々責められた。
なので、その時私は腰をすえて床にあぐらをかき、隣にワインを置きチマチマと猫が爪をといでボロボロにした壁を修復していたのだが、それを途中で切り上げてぶー子の言うとおりに飲み会的セッティングをすることにした。
しかしぶー子が掃除をしているキッチンに行ってみると大変なことになっていた。
彼女はゴチャゴチャになっている収納棚と引き出しの片づけをしていたのだが、「これもダメ、これもダメ。」と賞味期限の切れ果てたもので溢れかえっていたのだ。
ハンパな量ではない。
食べれる、もしくは使えるものは2割ほどか。
最古のものは賞味期限が2002年のものだったが、それらの化石は袋はプラに、中身は可燃ゴミに分別しなくてはならないのだ。
ハンパな量ではない。
加勢することにしたが、・・・・ハハハ。
食べかけ、または手付かずのお菓子。
レトルト類にパン粉の大袋。
意外なところでは乾燥のりが大量に残っていた。
小さいとは言えゴミ袋6つ分になった。
「終ったら合唱だね。」とぶー子。
「何歌うかぁ?」
「・・・違う、合掌ッ!!」
ナムー。
やっとカタがついたその時、たまたまコンポからはビートルズのレットイットビーが流れていた。
美しく、エンディングに相応しい曲である。
「・・・終ったね。」
「・・・ウン、・・・終った。」
「・・・どう、だった・・・?」わざとらしいほどの悲しい笑顔でぶー子に問う。
「・・・せつねぇ。」ぶー子もせつなく笑う。ドラマの最終回のようだ。
「心に残った別れは?」
「きりたんぽ・・・。」
きりたんぽは私が2年前の会社の旅行のお土産に買ったものだが、悲しい結果である。
しかし私はもっと前にダンナがお土産に買って来た五平餅を捨てられずに今日まで来てしまったのだ。
先に捨てられたのは五平餅でぶー子に散々責められたが、その後出てきたきりたんぽでチャラである。
実は私も五平餅については罪の意識があり、賞味期限が切れても責任をもって食べるつもりでいた。
この話を覚えている人は最強のぽ子フリークの称号を捧げたいが、結局そのまま今日まで来てしまった。
それが目の前に突きつけられて相当に辛かったが、その後に私が買って忘れられたきりたんぽが出てきて本当に救われた。
結局年末の大掃除のような事にかまけてしまったので、客人を迎えられるような状態にはならなかった。
救いは明日来るのは夕方になるという事だ。
翌日に響かないように早目に飲み出したが、何だか飲む時間が長くなっただけな気がするぽ子であった。