人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

洗浄

鼻が私の気力を奪っていく・・・。

何もやる気はしなかったが、それを思いついたらもうじっとしてはいられなかった。

洗浄

空気清浄機のその文字が赤くともっていたのだ。

もはや空気清浄機ぐらいでは私の鼻はビクともしないが、それでもあの機械がゴーと言っているのを聞くと、何だか目に見えない花粉どもが根こそぎ吸い取られていくようで、まぁまじない程度にはなっているのだ。

しかし「洗浄」が点いたということは、きれいにしろという事だ。

きれいにしろという事は、汚れているという事だ。

汚れているという事は、あの中が花粉だらけという事だ。

あの中が花粉だらけという事は、もう花粉が入らないという事だ。

もう花粉が入らないという事は・・・。

大変だ、早く洗浄しなくては!!

[洗浄]

[名]スル

1 薬品などで洗いすすぐこと。「胃を―する」

2 (洗浄)洗い清めること。特に、心身を洗い清めること。

しかし私は掃除機を持ってきた。

家庭内のフィルター類の掃除はダンナが主にやっているが、ダンナはこうして掃除機で吸っていたのだ。

だから私も掃除機を持ってきたのだが、洗浄の正しい意味を知ったのは今である。

こうして無知な私は、フィルターを外して掃除機でゴミを吸った。

キレイになった。洗浄と何が違うのだ。余計な手間をかけさせられるところだった。

そこで空気清浄機を見ると、フィルターのあったところにさらに薄い紙のようなフィルターがまっ茶っ茶に汚れて張り付いていた。

これは洗浄だとか掃除だとかいうものではない。

ペナンペナンの紙なのだ。

しかし交換するにも交換すべきものがない。

でもこんなに汚れたものをつけていたら、先程のフィルター掃除の効果が薄れてしまう。

私はその紙状のフィルターを外し、端を足で踏んづけて掃除機で吸った。

吸えたのか?わからない。

でも吸わないよりマシだろう。

紙フィルターを取った空気清浄機を見ると、スピーカーのようである。

これは外側からさらに吸えそうだな。

私はそこに掃除機をガシガシ当てて、吸い込んだ。

ところが良く見るとガタガタ動く。おっ、こいつも外れそうだ。

呆気なくそいつは外れ、今度は蜂の巣のような網が露出した。

そこも吸う。

すごいなー。こんなに外しちゃったよ。

私にこんな能力があったとは。感動。

で、もとに戻せなくなったかというと、そんな事もなかった。

これからもどんどん、色んなものをバラしていこうと思う。

きれいになった空気清浄機のスイッチを入れる。

ところがスイッチが入らない。

ヤバい、壊したか。

おかしいと思った。

私にそんな能力があるわけがないのだ。

ところが何度もスイッチを押していたら、そのうちについた。

なんだ、やっぱり私はやればできるのだ。

しかし、今度はまた洗浄マークが点灯している。

ぽ子、バラす能力はあれど洗浄の能力なしであった。

相変わらず花粉症の症状はひどい。

仕事に行き4時を回ると、パート仲間もほとんど帰ってしまい、部屋に残されたのは慢性鼻炎と花粉症のメンツオンリーとなった。

それでもどうも私が一番ひどい目に合ってる気がしてならない。

だいたいみんな、喋れるのだ。

それだけでも羨ましい。私だって喋れない訳ではないが、どうせ喋ったって通じないから喋らないようにしたいのだ。

「ぽ子さん、あれ、どれぐらいできました??」

課長が聞きに来たのは、もうすぐ定時になろうという頃だったか。

私はためらった。

発声してはいけない言葉は、声に出す前になんとなくわかるのだ。

私の座っていた位置から、足を骨折した課長が少ない移動で立ち止まった場所までは、ちょっと距離がある。

ボソボソッと小さな声で済ませられる距離ではない。

「えっと、はい、あ~・・・。」

私の答えは7枚であった。

・・・だだばい・・・です・・・。」

「だだばい!」正面に座っていた上司アンガが復唱する。

屈辱だ。

貝になりたい。

家に帰ってからも失敗してしまった。

娘ぶー子が、見損なったドラマの最終回があると嘆いていたのだが、そのドラマ、わかった。

ボンビーメンだ!!

これをどう発声したかはもう書かない。

やはりぶー子が復唱して大笑いした。

障害者を笑うんじゃないっ。

悪化を覚悟で酒を飲んでいる。

味などしない。水以下だ。

明日は休日だというのに、心踊らないぽ子であった。