鼻が私の気力を奪っていく・・・。
何もやる気はしなかったが、それを思いついたらもうじっとしてはいられなかった。
洗浄
空気清浄機のその文字が赤くともっていたのだ。
もはや空気清浄機ぐらいでは私の鼻はビクともしないが、それでもあの機械がゴーと言っているのを聞くと、何だか目に見えない花粉どもが根こそぎ吸い取られていくようで、まぁまじない程度にはなっているのだ。
しかし「洗浄」が点いたということは、きれいにしろという事だ。
きれいにしろという事は、汚れているという事だ。
汚れているという事は、あの中が花粉だらけという事だ。
あの中が花粉だらけという事は、もう花粉が入らないという事だ。
もう花粉が入らないという事は・・・。
大変だ、早く洗浄しなくては!!
[洗浄]
[名]スル
1 薬品などで洗いすすぐこと。「胃を―する」
2 (洗浄)洗い清めること。特に、心身を洗い清めること。
しかし私は掃除機を持ってきた。
家庭内のフィルター類の掃除はダンナが主にやっているが、ダンナはこうして掃除機で吸っていたのだ。
だから私も掃除機を持ってきたのだが、洗浄の正しい意味を知ったのは今である。
こうして無知な私は、フィルターを外して掃除機でゴミを吸った。
キレイになった。洗浄と何が違うのだ。余計な手間をかけさせられるところだった。
そこで空気清浄機を見ると、フィルターのあったところにさらに薄い紙のようなフィルターがまっ茶っ茶に汚れて張り付いていた。
これは洗浄だとか掃除だとかいうものではない。
ペナンペナンの紙なのだ。
しかし交換するにも交換すべきものがない。
でもこんなに汚れたものをつけていたら、先程のフィルター掃除の効果が薄れてしまう。
私はその紙状のフィルターを外し、端を足で踏んづけて掃除機で吸った。
吸えたのか?わからない。
でも吸わないよりマシだろう。
紙フィルターを取った空気清浄機を見ると、スピーカーのようである。
これは外側からさらに吸えそうだな。
私はそこに掃除機をガシガシ当てて、吸い込んだ。
ところが良く見るとガタガタ動く。おっ、こいつも外れそうだ。
呆気なくそいつは外れ、今度は蜂の巣のような網が露出した。
そこも吸う。
すごいなー。こんなに外しちゃったよ。
私にこんな能力があったとは。感動。
で、もとに戻せなくなったかというと、そんな事もなかった。
これからもどんどん、色んなものをバラしていこうと思う。
きれいになった空気清浄機のスイッチを入れる。
ところがスイッチが入らない。
ヤバい、壊したか。
おかしいと思った。
私にそんな能力があるわけがないのだ。
ところが何度もスイッチを押していたら、そのうちについた。
なんだ、やっぱり私はやればできるのだ。
しかし、今度はまた洗浄マークが点灯している。
ぽ子、バラす能力はあれど洗浄の能力なしであった。
相変わらず花粉症の症状はひどい。
仕事に行き4時を回ると、パート仲間もほとんど帰ってしまい、部屋に残されたのは慢性鼻炎と花粉症のメンツオンリーとなった。
それでもどうも私が一番ひどい目に合ってる気がしてならない。
だいたいみんな、喋れるのだ。
それだけでも羨ましい。私だって喋れない訳ではないが、どうせ喋ったって通じないから喋らないようにしたいのだ。
「ぽ子さん、あれ、どれぐらいできました??」
課長が聞きに来たのは、もうすぐ定時になろうという頃だったか。
私はためらった。
発声してはいけない言葉は、声に出す前になんとなくわかるのだ。
私の座っていた位置から、足を骨折した課長が少ない移動で立ち止まった場所までは、ちょっと距離がある。
ボソボソッと小さな声で済ませられる距離ではない。
「えっと、はい、あ~・・・。」
私の答えは7枚であった。
「・・・だだばい・・・です・・・。」
「だだばい!」正面に座っていた上司アンガが復唱する。
屈辱だ。
貝になりたい。
家に帰ってからも失敗してしまった。
娘ぶー子が、見損なったドラマの最終回があると嘆いていたのだが、そのドラマ、わかった。
ボンビーメンだ!!
これをどう発声したかはもう書かない。
やはりぶー子が復唱して大笑いした。
障害者を笑うんじゃないっ。
悪化を覚悟で酒を飲んでいる。
味などしない。水以下だ。
明日は休日だというのに、心踊らないぽ子であった。