あまりにも辛い境遇に置かれると、自分がそこに存在している実感がなくなって来ることがある。
足元がフワフワとしていて、浮遊感があるとでも言うのか。
ボーッとして現実に現実味がない。
そんな時は、魂が抜けかかっているらしい(笑)
自分の名前を3回呼ぶといいと言うので、試してみた。別に辛い境遇でもなく魂はしっかりここにあったが、やってみたかったのである。自分を呼び戻す。どんな感じなんだろうかと。
思えば自分の名前を「言う」ことはあっても、自分を「呼ぶ」ということはしたことがない。
「ぽ子。」
それは、「言う」のとは違う感覚があった。最後の音が、心持ち上がっているような、それがどこか優しい響きを持っていた。
「ぽ子。」
それは、懐かしい響きだった。胸がキュンと鳴る。
「ぽ子。」
それは、母の声だったのだ。全く、母の声だったのである。
「ぽ子。」「ぽ子。」「ぽ子。」私は立て続けに呼んだ。母が、私を呼んでいた。
遺伝子を引き継いでいるのである。声が似ているのかもしれない。言い方も似るのかもしれない。それは、驚くほど似ていた。
母は、厳しい人だった。慰めたり励ましたりなど、してくれなかった。
そんな母が、「大丈夫」と言ってくれているような気がする。
それは母の死後、8年目のことだった。
母は、まだここにいる。