デスク正面のカレンダーを見上げる。日課だ。忘れていることはないか。
火曜日に小さく「アカペラ」と書かれている。そうか、早めに復習しておかなくては。
本当に、忘れっぽいタチだ。予定はダメ押しであちこちに書かれている。スケジュール帳を開く。あ。
ミュウの命日であった。
辛うじて当日に思い出せて良かった。それでも「辛うじて」になっていることを、悲しく思う。
ミュウは遠くなっているのだろうか。そうは思いたくない。
時計を見ると、8時。4年前のこの時間、まだミュウは生きていた。
思い返す。
静かな朝だった。
予感はしていた。20歳。もう飲むも食べるもできなくなり、少しずつ終わりに近づいていた。それもいよいよ、という朝だったのである。
4年経っても、悲しい朝だ。泣いてしまうと悲しみは加速する。私は声を上げて泣いた。
「今日ミュウちゃんの命日だよ。」ダンナにLINE、悲しみのお裾分けじゃ。
ダンナの返事は意外なものだった。
「ミュウの命日は、12月2日だよ。」
え?訂正された??私間違えてた??カレンダーを見上げる。
その日は火曜日だった。そして12月2日は月曜日だった。
「昨日だったの!?」
完全に過ぎ去っていたのか。何もしてあげられなかった。死んだ子に何をしても仕方ないのだが、これでは私が辛い。
そしてダンナの次の返事は、もっと意外なものだった。
「まだ11月だよ。」
・・・え?
カレンダーを見上げる。
11月最後の週には、「燃えないゴミ」、「父電話」、「いっちゅーリハ」と書かれていた。どれもまだこれからのものだ。
私はミュウの骨壺を見る。
泣き損とまでは言わないが、滑稽であることには違いないだろう。ミュウは呆れているだろうか。
しかしここで気づいて良かった。アカペラのレッスンに行くところであった。
11月26日のできごとである。