人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

真相 / 横山秀夫

・「真相」

10年前に息子を殺した犯人が、とうとう捕まった。

息子が帰る訳ではないが、これでやっと一区切りがつく。事件の真相も、やがて明らかになっていくだろう。

通り魔的な事件であった。目撃者もなく、全てが闇の中だったのである。

ところが明るみになる事実は、全く想像のしないものであった。

にわかには信じられなかったが、知らなかったのは自分だけだったのか・・・。

 

被害者側である父が、真実を知るにつけ、人を傷つける加害者となっていく。いや、もともと加害者だったのか。

この父は、気づき、受け入れることができるようになったのだろうか。

最後にやっと、希望が見える。

 

・「18番ホール」

故郷の次期村長選に出馬すべく、県庁の職を辞した樫村。

祖父もまた、この村の村長だった。そして現村長の推進している開発プロジェクトを引き継ぐという樫村は、当選確実だと言われていた。いや、だからこその出馬である。

職を捨て、実家をリフォームし、家族を連れて村に戻った樫村には、実は大きな秘密があった。今回の出馬は、その秘密を完全に隠蔽する目論見もあったからである。

ところが突然、もうひとりの出馬が発表される。まさかの人であった。

なぜ急に。なぜあんたが。

もしかして、秘密を知っているのでは・・・・・。

 

疑心暗鬼にかられ、だんだんと情緒不安定になっていく樫村。

疑い始めるときりがなく、誰もが敵に見えて来るのだ。

人生をかけた選挙である。絶対に負けるわけにはいかない。

「真相」の父親同様、守りたいものにしがみつくあまりに見苦しく変わっていく様に不快感を覚える。ここでも見えない真実が樫村を、そして読者を苛立たせるのだ。

「罪と罰」を彷彿とさせる、不信感との戦いの描写が見事であった。

 

・「不眠」

リストラに合い、失業保険と治験のアルバイトで家族を養っていた山室。

試薬は不眠症に関わるものとのことで、山室の睡眠状況も悪化していた。

夜になっても眠れず、布団を抜けだしては真夜中に散歩をする。

そんなある明け方近くのこと。散歩をしていた山室は、見覚えのある車とすれ違う。

ほどなくしてパトカーのサイレンが鳴り響いたが、体調も精神状態もギリギリだった山室にはどうでもいいことだった。

しかし後日、刑事が山室の自宅にやってくるのである。

あの日あの時、起きていた殺人事件。山室にアリバイはない。どころか、あの日あの時、現場近くで山室を見たと証言した人がいるのである。

うっかり治験の試薬で眠れず散歩を、などと言ってしまい、これがハローワークにばれたら失業保険ももらえなくなってしまう。

いやそれよりも、自分は犯人ではない。そうだ!あの晩すれ違った車がいたではないか・・・。

 

この主人公もまた、追い詰められていく。

リストラに合いながらも家族を養わなければならないプレッシャー。

殺人犯にされそうな状況。

しかし辛いのは、山岸だけではない。

なんとも切ない話であった。

 

・花輪の海

「殺されるぜ・・・。」

大学時代の空手部の特訓は、シゴキを通り越して拷問と化していた。OBを含めた上級生は、執拗に一回生をいじめ倒す。退部すれば脅され、退学するより他はなくなるのだ。残っている一回生は、どうしても退学も退部もできず、耐えるしかない者ばかりだった。

その合宿は、凄惨を極めていた。そしてついに、死者が出るのである。その時の気持ちは、いつまでも一回生を苦しめる。なぜなら・・・。

 

サトルは本当に、事故で死んだのか。

結果的にサトルの死で一回生は地獄の部活から解放されることになるのだが、罪悪感を抱えたまま真実から目を背けて生きていくのだ。

それを共有する時。

みんな、苦しんでいた。最後に小さな希望を見る。

 

・他人の家

刑務所を出て妻と二人、ひっそり生きる貝原。「贖罪」として、毎朝電柱5本分の区間の清掃を課していた。

地元を離れ、やっと職を得たところだったが、一週間以内にアパートを出るように突然大家に言い渡される。

どうやら貝原の悪事はネットで公開されているらしい。職場に知れるのも時間の問題だろう。もうどこにも生活できる場所はなさそうである。

絶望の淵で縋ったのは、毎朝の掃除で出会う佐藤老人。お陰で貝原夫妻は救われるが・・・。

 

前科者の貝原ではあるが、根は真面目な善人である。往々にしてこういった人間が生きづらくなるものだが、そんな中で見いだされた希望。そして佐藤老人の秘密。

衝撃的な展開だが、貝原の決断が私に正しく伝わっているのかどうか、正直自信はない。

 

 

どのストーリーにも「秘密」があり、それが主人公を苦しめる。

息苦しく閉塞感のある話ばかりだが、最後に小さな希望を見て終わるのだ。

しかしその希望はフンワリと遠回しに描かれているので、伝わりにくさがある。

故にスカッとしないように感じるのは私の理解不足だとは思うが、グイグイ引っ張って来るものがあるだけに勿体なく思えてしまう。

「半落ち」や「クライマーズ・ハイ」を書いた作家とのこと、そのような長編の方に興味を持った。

 

 

ぽ子のオススメ度 ★★★☆☆

「真相」 横山秀夫

双葉文庫