そもそもは、眠くて仕方がなかったのだ。
寝る前のお楽しみゲームタイムも集中できず、早く布団に入ることにした。
多分、花粉症の薬のせいだろう。油断すると眠くなる1日だった。
ぐっすり眠れるなら、それはそれで悪くない。寝支度をして、ベッドに入る。
いつもなら入眠の儀式として、読書をする。眠くてたまらなかったが、しばらくサボったのでそろそろ読んでおきたいところだ。
しかし、眠い。
どうして眠気とは、何かしようと思うほどにやってくるのだろう?
メガネをかけたまま、目を閉じる。気持ちえー・・・。吸い込まれていくような感覚。
このまま行ってしまいたい。
あ、でも、エアコンと電気・・・。今、電気代高いからなぁ。あぁこのまま眠ってしまえたら。消さなくては。葛藤するほどに押し寄せる睡魔。
意を決して、エアコンと電気を消す。もうこれで、やり残したことはない。寝ていいのだ。
そう思った途端に、潮が引くように睡魔が薄れていく。
チィッ。
そんな予感はしないでもなかった。私の睡魔は、あまのじゃくなのである。寝ようと思うと眠れず、寝ちゃいけない場面ほど眠くなる。
悔しい。睡魔は私の頭上で私をあざ笑っている。
葛藤したまま、眠ってしまえば良かった。入手困難な「快眠」を電気代と天秤にかけ、私は快眠を失った。電気代で快眠を買えば良かったのだ。
一度失った悔しさを自覚してしまうと、それはさらに遠ざかる。すっかり目が覚めてしまった。
電気は消えている。静かな夜だ。真っ当な夜である。人が眠る時間。さぁ寝ろよ。
いつもの夜の葛藤が甦る。あぁ惜しい。さっきの睡魔が惜しい。
そうだ、本を読むことにしよう。厳密に言うと、「読まなきゃ」という義務感だ。これがあまのじゃくを呼び起こしてはくれないか。
本を、本を、あぁ面倒臭い、でも読まなきゃ・・・。
しかしこれも、あまのじゃくを呼ぶために自分を騙していることを、私は気づいている。茶番だ。
あまのじゃくは私の頭上で笑っている。
負けた。
私は観念して電気をつけ、本を開いた。入眠の儀式である。眠剤は飲んである。2、3ページも読めば眠くなるだろう。
睡魔め。
しかし怒りは眠気を遠ざけてしまう。悔しいが私はお前を許す。私を弄んだ睡魔。
あとはいつも通りの夜だ。
2、3ページで眠くなり、電気を消し、完全に眠りに落ちる前に一度覚醒し、やっと眠る。
そして朝までに数回、キッチリと目を覚ます。あまりに目覚めがいいのでついでに猫のご飯をあげたり猫を布団に入れてあげたり猫を撫でたりする。
「我々ぐらいの歳になると、普通は朝までぐっすりなんて眠れませんよ。」
眠剤を出している先生は言う。つまり、これ以上どうしようもないということだ。
確かに以前よりは眠れているし、そう言う意味では私の睡眠状況は改善された。
それでも私は毎晩夜中に目が覚める度に、「一生これか」と思うと心底ウンザリする。
歳のせいで眠れないなんて言い草、職務怠慢ではないか。
この病院に変えて、4年になる。
次の診察で多めにあのふざけた名前の薬を出してもらい、もうあんたとはおさらばさせてもらう。
夜中に目覚めた私はそう決意し、スマホに入力した。
もう一度、おやすみなさい。
何度目かの夜中だった。